第13回2020年上期にユニコーンになったEdTech系企業4社

はじめに

新型コロナウイルスの影響を受けて、学校や塾の教室が閉鎖されたことにより、オンライン授業を提供する企業が大量に新規ユーザーを獲得するなど、EdTech関連サービスへの需要が増え、投資家の関心も高まっている。現在、このEdTech領域における「ユニコーン」(企業価値が10億ドルを超える未上場企業)と呼ばれる会社は世界で19社ある(内、中国10社、米国7社)。2020年に入ってから4社が、そのうち2社が直近3ヶ月の間にユニコーンになっている。今回の記事では、2020年上期にユニコーンになったEdTech企業4社「Udemy」「ApplyBoard」「Course Hero」「Quizlet」の事業について紹介する。



2020年上期にユニコーンとなったEdTech企業

1. Udemy(米国)

  • 基本情報
    • 誰でも自由にインストラクターとして登録可能で、自作の動画レッスンを公開・販売することができるCtoC学習プラットフォームを運営している。6万人を超えるインストラクターが登録されており、動画は15万本ほど公開。料理や楽器の演奏の仕方、プログラミングの書き方などが人気。
    • レッスンの大半は動画コンテンツで、動画視聴後に理解度を確認するための練習問題などが盛り込まれている。
    • 新型コロナウイルスの影響による追い風を受けて、2020年2月から3月末にかけて新規受講者が4倍以上に増加。さらに、2020年3月から5月末までのUdemyの売上は、前年同期の2倍に達したと発表している。
  • ビジネスモデル
    • インストラクターが自由に設定したレッスン料金(10〜20ドル程度)を講座ごとに受講者が支払う形となっており、受講者が支払うレッスン料金の50%がインストラクターの収入となる。
    • 近年は企業のトレーニング向けBtoB事業に進出し、adidas、トヨタ自動車、Pinterest、Lyftなど約5000社に向けた、サブスク型の職業訓練コースの開発・配信に注力している。
  • 直近の資金調達状況
    • 2020年2月にベネッセから約5000万ドルを調達し、累計ではLearn Capital、Norwest Venture Partnersなどから2億ドルの調達を実施している。


2. Apply Board(カナダ)

  • 基本情報
    • 米国国外にいる高校生・大学生・社会人が、米国の大学機関で学ぼうとする際の、大学検索・出願から合格後のVISAアプリケーションなどの入学手続きまでをワンストップで支援するサービス。いわゆる留学エージェントを全てデジタル化したものと言える。
    • 成績や金銭的条件、学びたいコース等を入力するだけで、大学機関候補がAIによってパーソナライズされレコメンドされる。一回の入力で、複数の大学機関に申込可能となっている。
    • 2018年のシリーズAでの資金調達後、売上が2017年度比で約13倍成長、さらに2019年度には2018年度と比して5倍成長と発表されている。ユーザーは10万人前後、米国・カナダの大学だけで1400校に導入されたと発表されている。
  • ビジネスモデル
    • 大学機関が、掲載料・広告料をApplyBoardに支払い、学生・受験者は無料で閲覧・出願可能。
  • 直近の資金調達状況
    • 2020年5月に、総額7500万ドルを追加調達し、累計約1.3億ドルの調達を実施している。


3. Course Hero(米国)

  • 基本情報
    • 大学授業のシラバス・ドキュメント、市販教材、ノートメモ、動画などの学習コンテンツをCtoCでシェアしたり、そのコンテンツに関する内容について24時間いつでも質問可能なオンラインチュータリングサービスなどを提供している(2012年にオンライン家庭教師プラットフォームInstaEDUを買収しており、大量のチューターを抱えている)。
    • YouTubeなどインターネット上で無料公開されている米国大学のオンライン動画教材などをキュレーションして閲覧可能にしており、大学、学科、講師、トピックごとに検索できるようにしている。
    • 学生向けだけでなく、教員向けにリソース共有のプラットフォームとしても提供している。
  • ビジネスモデル
    • ユーザーからの課金を軸としている。コンテンツを閲覧・ダウンロードしようとすると、そのコンテンツを見るためには「自分が持っている別のコンテンツを40個アップロードする」or「月額課金をする」のどちらかを選択しなければならない。
  • 直近の資金調達状況
    • 2020年2月に、シリーズBでNew View Capitalから1000万ドルを調達し、累計2800万ドルの調達を実施している。


4. Quizlet(米国)

  • 基本情報
    • 暗記カードをオンラインで簡単に作成できるツール。自分で暗記カードを作成するだけでなく、カードを友達と共有して互いに問題を出し合うなどのグループ学習もできる。2020年3月以降、毎週10億問以上の小クイズがユーザーによってQuizletに追加されていると発表されており、大きく成長している。現在の月間のアクティブユーザーは5000万人でコロナ前の200-400%成長を果たしており「米国の高校生の3分の2以上、大学生の少なくとも半数がQuizletを使用している」と発表している。
    • 暗記カードに加えて、学習プラットフォーム事業を並行して運営している。掲載されているコンテンツをAIが集約し、ユーザーは限られた時間(指定した時間範囲)で、習得したいトピックの練習問題に取り組む。
  • ビジネスモデル
    • ユーザーからの課金(月額200円程度)を収益の軸としている。無料会員でも、基本的な機能(暗記カードの作成・演習)は利用できるが、有料課金することで、暗記カードへの画像挿入、コンテンツ作成機能のアップグレード、プレミアムコンテンツ(出版社などと提携し、参考書・教科書・資格検定など幅広いラインナップに対応)が利用できるようになる。
  • 直近の資金調達状況
    • 2020年5月に、シリーズCでGeneral Atlanticがリードし、総額3000万ドルの資金調達を実施。累計6000万ドルの資金調達額となった。今回新たな投資家となったGeneral Atlanticは、これまで世界のEdTech企業に投資しており、Ruangguru、Unacademy、Duolingoなどに投資している。


考察

今回の記事では、2020年に入り、新型コロナウイルスの影響下で大型の資金調達を果たしてユニコーンとなったEdTech系の企業4社について取り上げた。この4社に限らず、EdTech系の企業は新型コロナウイルスの影響下でユーザー数や活用状況が大幅に増加するなど躍進を見せているが、何故にこの4社が大型調達を果たしたのか、その共通項は現時点では見えていない。本ブログで当初から注目しているK-12/Higher Education領域でいえば、今回の全4社のうち、Apply Board以外の3社はそれに該当しており、市場としての需要の高まりを感じるものとも言える。

さらに言えば、これらのサービスはオンライン完結のサービスである(新型コロナウイルスの影響下でも、物理的な接点なく学習できる)という特徴が、様々なニーズに合致して大きく伸びているとも言えるのかもしれない。一方で、カスタマー(ユーザー)が直接コンテンツを提供する形のモデルは、そのサービス上に掲載されるコンテンツの品質担保が非常に重要となるが、過去のEdTech領域における歴史としては、そのアップロードされたコンテンツの著作権周りで問題が起きたり、品質が十分に担保されず、結局はキュレーションされた(選別された)品質が担保されたサービスにユーザーが流れたという過去もある。新型コロナウイルスという一時的な影響のみならず今後継続的に伸びていくには、どのようにサービスとしての品質を担保したコンテンツを提供していくのかが重要になるであろう。

また、コンテンツとしての議論のみならず、そのサービスを活用して何かを学ぼうとするユーザーにとって本当に成果が出る・意味のあるコンテンツ・プロダクトになりうるのか、という観点で捉えることは決して忘れてはならない。これまでの記事でも繰り返し述べてきたように、EdTech領域は2010年初頭の勃興の後、様々な七転八倒の歴史を経てきている。便利なサービス・プロダクトを作れば自然に広まるはずであるという誤った仮定の元に、幾多のEdTechのスタートアップが過去存在し、その多くのサービスが、課金率や受講完了率の低さといった「生徒が学習しない・続かない」というイシューに悩まされてきた。過去の痛みやそれに伴う先駆者の学びを、EdTech事業者は真摯に受け止めなければならない。コンテンツの価値に加え、テクノロジーの価値やリアル(人・場所など)の価値などの強みを正しく理解することが非常に重要となるが、それよりも何より「生徒がどのように使うと、伸びるのか?」という、最もシンプルな問いに対してどこまでも真摯に拘りきることができるEdTechプレーヤーが、真の意味で教育業界にとってのイノベーションを生み出すものであると、信じて止まない。

2020年8月14日