第19回SXSW EDU 2022参加レポート

はじめに

2022年3月7日から10日、米国テキサス州オースティンにて世界最大規模の教育カンファレンス「SXSW EDU 2022(サウスバイサウスウェスト・イーディーユー)」が開催された。3年ぶりにオフラインでも開催された今回、atama+ EdTech研究所 顧問の稲田が現地で参加した。

本記事では、稲田が実際に見聞きしたカンファレンスの様子を報告する。


SXSW EDU 2022 カンファレンス概要

2022年の「SXSW EDU」は、オフライン開催とオンライン開催を組み合わせた初のハイブリッド形式で開催された。1日1つの基調講演、数百のプレゼンテーション、数百のパネルディスカッション、数百の教育事業者やNPOによる展示等多くのコンテンツがある中で、参加者は専用アプリから興味があるセッションを探し、参加する。どのセッションも登壇者と参加者の距離が近く、カジュアルな質疑応答が可能であった。

会場の参加者は目視する限り数千名程度。米国の学校関係者や教育委員会関係者、EdTech事業者、NPO等からの参加が目立った。



SXSW EDU 2022 の様子
(上:展示ブース 下:基調講演)


米国教育業界のホットトピックは「ダイバーシティ&インクルージョン」と「ソーシャルスキル習得」

SXSW EDU2022で、特に参加者の関心が高かった2つのトピックを紹介する。

① 学校内のダイバーシティ&インクルージョン

近年、日本でも耳にする機会が増えてきた「ダイバーシティ&インクルージョン」とは、「性別、年齢、障がい、国籍などの外面の属性や、ライフスタイル、職歴、価値観などの内面の属性にかかわらず、それぞれの個を尊重し、認め合い、良いところを活かすこと」(参照:三井住友海上「ダイバーシティ&インクルージョン」より [2022/4/6] )である。

2日目の基調講演では、”When Culture Wars Come to School”という題目で、人種・性などを理由とした学校内でのいじめ問題に関するパネルディスカッションが行われた。500人規模の会場で行われた本講演は満席で、参加者のダイバーシティ&インクルージョンへの関心の高さがうかがえた。

人種や性に関する学校でのいじめ問題が人々の関心を集めている背景には「SNSの台頭」があると語られていた。これまで声を上げることが難しかった少数派の生徒が、SNSを通じて「いじめを受けている」といった事実を発信することで、学校におけるいじめの実態をより多くの人に理解してもらいやすくなったようである。

講演が終わると、視聴していた参加者全員がスタンディングオベーションをし、学校内でのいじめ問題廃絶に向けて会場全体が一致団結していた姿は大変印象的であった(全員のスタンディングオベーションが起きたのは4日間を通じて本講演のみ)。

② オンラインでのソーシャルスキル習得

コロナ禍でオンライン授業が広がったのは米国でも同様である。会場で会った教育関係者の多くが、オンライン授業の有効性を認め、活用を続けるだろうと話していた。一方で、参加者の議論の大半を占めたのは、オンライン授業での「ソーシャルスキルの習得」における課題への対応だ。特にK-12領域(幼稚園〜高校生)での関心の強さが顕著であった。SXSWに出展していたEdTech事業者の多くも、オンライン上でのソーシャルスキル育成コンテンツ、もしくは、生徒との対話時間を増やすために先生の業務効率化をするプロダクトを提供していた。
特に印象に残ったEdTechサービスは”Empatico”だ。Empaticoは、NPOのThe KIND Foundationが運営する、世界中の5〜14歳の子供たちを無料でつなぐプラットフォームである。Empaticoのプラットフォームに登録すると世界の別地域の教室とマッチングされ、ビデオ会議を活用したオンラインでの異文化交流授業が無料でできるようになる。既に197国、4万5千以上の教室、6万人以上の生徒が参加しており(22年3月時点)、日本からも約50教室が参加しているとのこと。オンラインならではのソーシャルスキル習得に向けたサービスとして、今後も普及していきそうである。


出展:Empatico 公式HPより


新たな潮流’Cohort-based learning’

主に社会人の学び領域で新たに出現しているのが、’Cohort-based learning’という学習スタイルだ。Cohort-based learning(コホート型学習)とは、オンライン上で先生と生徒が双方向に対話しながら学ぶ学習スタイルのことであり、米国では、社会人領域を中心に広がっている。SXSW EDU 2022では、Cohort-based leariningのプラットフォームを提供するMaven社 Co-founderのWes Kao氏が”The Shift from Content to Community” の題目で登壇。従来のMOOCs(Massive Open Online Courseの略。2010年代に広まった大規模公開オンライン講座のこと)との違いなどを語った。Wes Kao氏によれば、MOOCsのようなオンライン動画授業は安価かつ非同期で学習ができるというメリットがある一方、動画を視聴するという受動的な学習であるため、修了できるかは生徒のモチベーションに依存するという課題があった。一般的にMOOCsの修了率は3〜6%程度だといわれている。対して、Cohort-based learningは、提供価格はあがるものの、講師と生徒・生徒同士での双方向なコミュニケーションを通じた学習であるため、参加者のエンゲイジメントが高く学習を続けやすい。実際に、Cohort-based learningを取り入れたオンライン講座の修了率は8割近くまで上がっているそうだ。講演を通して、米国では、学ぶ意欲の高い社会人にとってはCohort-based learningのニーズが強いことがうかがえた。今後、日本でもこのようなスタイルの学びも広がってくるかもしれない。


まとめ

SXSW EDU 2022に参加し、米国では、ダイバーシティ&インクルージョンやソーシャルスキルの習得など、日本でも徐々に問題意識が高まっているトピックに対する参加者の関心の高さがうかがえた。特に、コロナ禍におけるソーシャルスキル習得の課題は、日本でも顕在化している。これらの領域における世界の新しい取り組みは、引き続き追っていきたい。

また、SXSW EDU 2022に参加して、米国が社会変化を受け入れ、新しい教育のあり方を前向きに模索する姿勢が伺えた。変化する社会への向き合う姿勢、特にテクノロジーを積極的に取り入れて教育を進化させようという姿勢は、日本も見習うところがあるかもしれない。

2022年4月12日