第23回 教育最前線 – 国内の塾におけるEdTech の価値事例「寺小屋グループ」編

日本の教育において、これから EdTech はどんな価値を持ちうるのか? 日々子どもたちに接しながら、実践の中で EdTech の効果を体感されている塾が数多く存在しています。それらの教育関係者のみなさまにインタビューしながら EdTech の可能性を探っていく本シリーズ、第5 回は、1979 年に創業し、愛媛県を中心に多様なコースと多数の教場を展開する学習塾「寺小屋グループ」を取り上げます。寺小屋グループ取締役・専務執行役員の吉見達治様、運営管理部・atama+事業部長の戸田圭佑様、そして寺小屋グループに通う生徒さんにatama+ EdTech 研究所上席研究員の森本がお話を伺いました。


地域の方々に愛され、地域に根差すため、EdTech を導入

―― 寺小屋様は2022 年度よりatama+を活用されています。どのようにお使いなのでしょうか?

吉見様:まずは2021 年に一部の教場における中高生向け夏季特別講座でトライアル導入しました。個別最適化学習で学力がつくこと、自分のペースで進められる点などについて、高い満足度が得られたため、2022 年度から本格的に導入しました。

吉見達治 寺小屋グループ取締役・専務執行役員

戸田様:具体的には、中学生向け集団指導の数学と英語の全コースにおいてatama+を授業内外で活用しています。また、元々あった小中学生向けの”フリーコース”という小集団指導コースを、atama+をメイン教材とした小中高生向けコースに変更しました。

戸田圭佑 運営管理部・atama+事業部長

―― 導入について、社内や生徒さんからはどのような反応があったのでしょうか?

吉見様:寺小屋グループでは「地域の方々に愛され、地域に根差すこと」を実現するため、社員一丸となりさまざまなチャレンジを続けています。今回も、AI による個別最適化学習によって、幅広い生徒に価値を届けられること、また、「成績は本当に上がる」と社員たちが自信満々に言っていたことから、地域に根差すサービスになると判断し、導入を決定しました。これに多くの社員が賛同し、納得してくれました。
導入数カ月後に生徒にアンケートをとったのですが、約90%の生徒がatama+の学習について「とてもよい」「よい」と、77%の生徒が、「atama+を使って解ける問題が増えた」と回答してくれました。
社員からは「もっとこう使うと良いのではないか」という意見も届きます。すべては生徒に良い教育を届け、地域に根差していくことを目指した発言ですから大いに歓迎しています。


幅広い学力・学年を同時に指導できるモデルを創り、生徒の高い満足も獲得。
教場横断での改善活動にも磨きをかける。

―― 新しいモデルで運営されているコースがあると伺いました。どのようなコースなのでしょうか?

戸田様:フリーコースというコースです。元々あったコースなのですが、指導内容を全面的に改革しました。以前は紙教材を使って生徒5~6 人を講師1 名で指導していました。1 枠90 分でしたので、生徒1 人につき15 分程度の時間しか取れませんでした。時間的な制約がある中で、解説や丸付けが十分にできない場合や、順番が回ってくるまで待ちが発生してしまう場面もあり、もっと生徒の学習の質をあげることで成績を伸ばしたいという葛藤を常に持っていました。

―― そのフリーコースをどのように変更されたのですか?

戸田様:まず教材をatama+に統一しました。これにより、生徒も講師を待たずに、自分に最適な内容をどんどん進められるようになりました。講師1 名が対応できる生徒数が増えたので、通塾日も生徒が自分のスケジュールにあう日を選びやすくなり、利便性が上がりました。これらによって学習の質も量も向上し、生徒の満足度向上に繋がったのでは、と捉えています。

吉見様:社員へ業務内容の変化についてアンケートをとったところ、「宿題の管理がしやすくなった」「生徒の苦手単元が把握しやすくなった」という意見が最多でした。この他に興味深かったのは「生徒への声かけの量が増えた」「保護者に生徒の様子を伝えられる・保護者との会話量が増えた」という意見も多かったことです。保護者との信頼関係の強化をテーマにしているので、とても良い効果がでていると思いました。

戸田様:アンケート結果の理由は、生徒や保護者との対話に時間を割けるようになったからだと思います。生徒も社員と対話量が増えたことで、より学習内容の理解度や塾の指導に対する満足度が上がったように思います。
社員の中で、対話を大切にしようという目線も揃いました。教務指導面や生徒とのコミュニケーション面において運営の軸ができたことにより、社内の運営改善活動も以前に比べてより進むようになりました。日に日に運営力が上がっていることを実感しています。


少子化の時代であっても県内各地における教育の灯を継続させたい。
集団指導教場の一部もフリーコースへフルモデルチェンジ。
地域からの信頼も獲得しつつあり、生徒数も増加

―― 集団指導からフリーコースに転換した教室もあるとお聞きしました。

吉見様:はい、元々集団形式だった教場を中心に4 教場を2022 年度にフリーコースに転換しました。先ほどお話しした通り、フリーコース自体も改革するタイミングでしたし、勇気が必要な決断でした。ただ、今となっては「きちんと満足してもらえ、地域に根差すサービスになる」と手ごたえを感じています。

――なぜその決断をされたのでしょう?

吉見様:愛媛県も他地域と同様に少子化が進んでいます。集団指導は、学力・目標・進度別にクラスを分け、近しい生徒が一緒に学習するからこそ授業内容が生徒にフィットしていくモデルです。逆に言えば、生徒数が減っていく時代に集団授業を成り立たせようと生徒を1 つの授業に集めると、そこにさまざまな生徒が存在することになります。こうなると得意な生徒は授業中に待つ時間が長くなりますし、苦手な生徒はついていけなくなります。つまり生徒にとっても不幸なのです。
また、授業あたりの生徒人数が少なくなるということは、担当者への給料面を考えても当然マイナスです。利益を給与として社員に還元していくことや納税していくことは「地域に根差した企業」として、とても重要なことです。ただ、教育業界は常に人手不足です。そのため、新しい塾の経営モデルを創ることで、生徒は今までよりも学習しやすくなる、保護者の皆さんは今までよりも担当者からの報告を密に受けられるようになる、社員たちもしっかりと生活していける、という良いサイクルを目指していきたいですね。それが、地域になくてはならない存在として生き残るために必要なことだと思っています。こういった思考が、少子化の時代に経営者に求められていることなのではないでしょうか。

―― その結果が、フリーコースの改革、集団教場のフリーコース転換だったのですね。転換後の様子をお聞かせください。

吉見様:はい。ありがたいことに、集団指導からフリーコースに転換した初年度から小中学生の人数は維持できています。教場にいる社員は以前より少ないのですが、それでも、生徒・保護者に満足してもらえるモデルを作れたと思っています。ある生徒は、フリーコースになってから複数の友人を連れて来てくれました。友人を連れてきたくなるモデルができつつあります。

―― 今まで小中学生だけの教場でも、高校生の受け入れを開始されたとお聞きしました。

吉見様:高校生まで一貫指導できる教場にしたかったのです。今は少子化で高校入試倍率がどんどん下がっています。中学生にとって、高校入試は以前ほど学習する理由になりません。ただ、大学入試は他県の生徒との競争になりますので、このままでは大学受験において愛媛県と他県との差がどんどん拡大してしまいます。ですので、小中学生のうちから大学入試も見据えて12 カ年一貫指導をしていきたいとずっと考えてきました。高校生を受け入れた初年度から高校生も集まってくれました。

―― 教場当たりの社員数は少なくなる一方、小中学生の人数は維持、高校生は増加と運営面の努力も感じます。

戸田様:はい、日々社員一丸となり運営方法に磨きをかけています。教務指導はAI のアタマ先生もついています。その分、社員は以前より生徒、保護者とコミュニケーションの量を増やせています。こういったことも満足度に繋がっているのではないかと感じています。


新ブランドを立ち上げ、この改革を更に前進させる。

―― 更に2023 年度はFLaT という新しいブランドを立ち上げられるとお聞きしました。

吉見様:はい、2023 年度は、FLaT という新しいブランドでこのモデルを更に展開していきます。小学生から高校生まで受け入れられる学年の幅広さと学力的な幅広さ、生徒がフラッと通える通い放題制、でも料金はフラット、そんな願いを込めたブランドです。物価も上昇しています。地域のことを考えると、良い教育をたくさん来てもらっても価格は変えずに提供していきたいと考えました。

―― 生徒が増える一方、人手不足の話を他業界からもお聞きします。

吉見様:愛媛も少子高齢化が進み、どの業界も人手不足です。新規採用の難しさに悩んでおられる経営者の方々は多いのではないでしょうか。教室を運営するとなるとご家庭から生徒を預かるわけですから、責任感の強い人財が必要です。一方、社員も高齢化などの理由で退職していきます。今までのモデルですと、社員数の減少により教室を閉めるという決定をしなくてはいけなかったかもしれません。しかし今回のFLaT モデルでは社員数が減っても教室数を維持することができます。
人口減の時代、県内各地で教育の灯を継続すること、地域に根差すということが教育機関としての塾に求められている使命なのだと感じています。

―― 新ブランドで最も大事にされることは何でしょうか。

吉見様:生徒や地域の皆さんとの心の距離を大事にしています。教材でAI を使っていても、人の心を動かすのは人です。どんなに優れたAI でも、AI と結婚したいと思う人はいませんよね。人は人を求めるのだと思います。通い放題モデルになれば、生徒1 人あたりの通塾日数も増やせます。教場に来たい、会いに行きたい、友人も連れて行きたい、そう思ってもらえる教場を創り続けていきます。

戸田様:FLaT を展開することで、色々な発見もあると思っています。2022 年度におけるatama+の運用を通じて「生徒・保護者との対話を重視しよう、気持ちで繋がっていこう、絆を強くしよう」という共通認識を、社内で持つことができました。同じ目線で運営改善を続けていきますので、更に磨きをかけていきます。

―― 本日は、変化する時代に力強く新しいモデルを創出し、磨き込んでいくお話をお伺いしました。誠にありがとうございました。



フリーコースに通う生徒さんへのインタビュー

―― フリーコースのどんなところが良いですか?

A さん(中2・女子):自分のペースで通えるところです。私は運動部に所属しているので、曜日によって終わる時間が違いますし、大会前は練習もハードです。集団授業は休んでしまうと授業が受けられなくなってしまいますが、フリーコースは自分のペースで通えるので、他のことと両立させやすいです。

B さん(中1・男子):僕は自分に合った動画や問題が出てきてくれるところです。集団授業では皆のペースに自分が合わせなければいけないですよね。僕は皆のペースで勉強するより、自分にあった内容をやるほうが必要な内容を学習できるので良いなと思っています。

―― A さんは友人を誘ったとお聞きしました。

A さん:はい、同じ部活の友人2 人におススメしました。今は2 人とも同じ教場に通っています。私と同じように部活のハードさに波があるので、2 人にとっても良いだろうなと思いました。家からの距離や他の予定もあるので同じ日に通っている訳では無いのですが、とても励みになっています。

―― B さんは先取りをしているとお聞きしました。

B さん:はい、数学も英語も学校の進度よりもatama+の方が早く進んでいます。2 月中旬には中1 範囲が終わりそうです。入塾したのが半年ほど前なので、半年で中1 範囲を終えるくらいのペースです。講義があるので、予習にもしっかり使うことができます。ノートにしっかり書くことを大切にしています。

Bさんのノート

―― A さんも先取りをしているとお聞きしました。

A さん:私も学校よりatama+の方が2 か月分くらい先に進んでいます。難易度は+++で進めていて、数学は入塾前より10 点くらい上がり、今は90 点台後半です。

―― 将来の夢を教えてください。

B さん:父が教育関係の仕事をしているのですが、僕も将来は教育関係、今は数学の先生になりたいと思っています。

A さん:今はまだ夢は無いのですが、大学に進学してみたいと思っています。なので、今から色々と頑張っていきたいです。

―― お2 人ともありがとうございました。


第23回教育最前線 - 国内の塾におけるEdTech の価値事例「寺小屋グループ」編(PDF)
2023年3月17日