第7回 新型コロナウイルスと世界のEdTech状況速報
現在世界中で、新型コロナウイルスの感染拡大に関連した報道や関係各所の対応が続き、多くの企業でリモートワークが推奨されるなど大きな転機が訪れている。教育分野においてもそれは例外ではなく、各国で生徒を取り巻く学習環境は大きな変化を強いられている。
今回の記事では、そのような教育関連における各国の状況について、海外メディアでの報道内容をまとめるとともに、現在の状況におけるEdTechの果たす役割について考察を述べたい。
米国のEdTech関連メディア「eLearningInside」では以下のようにまとめられている。
- 新型コロナウイルス対策での学校の閉鎖は、中国、香港、台湾、ベトナム、ラオス、韓国、日本、イタリア、イラン、モンゴル等に広がっている。
- 学校閉鎖を余儀なくされるような状況下、様々なEdTechサービスが、教室での授業の代替手段として世界中で活用されている。
- 中国政府は、主要な通信事業者3社のChina Mobile、China Unicom、China Telecom、およびBaidu、Alibaba、Huawei等テック系企業にも協力を仰ぎ、5000万人規模の生徒が同時接続可能なオンライン学習プラットフォームを立ち上げた。そこでは中学高校の12科目の映像授業が網羅されている。
各国で学校の閉鎖・休校が相次いでいることから、EdTechサービスの需要が非常に高まっており、中国のEdTechユニコーン企業であるiTutorGroupのFounder/CEOのエリック・ヤン氏は次のように述べている(Bloombergから抜粋)。
- 2月の1週目、iTutorGroupのプラットフォームで学習した人は、前年比で3倍になった。
- 新型コロナウイルスによって、オンライン教育は再注目されることとなっている。中国のオンライン教育市場は、向こう3年間で対面での教育マーケット規模を上回ると予想されていたが、今回の事象が影響し、そのターニングポイントがずっと早く来るのではないかと思われる。
また、今回の新型コロナウイルスの猛威と関連して、多くのEdTech関連企業の株価が急上昇している。
- TAL Education(中国教育大手)の株価は、2月21日に史上最高を記録。(現在は元の水準に戻っている)
- NewOriental(中国教育大手)とTencent(中国IT大手)は「中国全土のeラーニングプラットフォーム化」に取り組んでおり、2月19日、1年ぶりの高値を記録。(現在は元の水準に戻っている)
このように、新型コロナウイルスの影響により自宅での学習を行わざるを得ない環境の中、EdTech事業者の様々な取り組みが注目を集めている。日本でもEdTech事業者各社が学校の休校措置に対応したサービスを提供しており、各社の取り組みを経済産業省が特設サイト「学びを止めない未来の教室」を作成し紹介している。
また、教育関連イベントについて、2020年3月中旬に開催予定だった米国最大級のEdTechカンファレンスイベント「SXSW EDU」(例年、世界中から約10,000人の教育系スタートアップやVC、学校関係者などが集まる)の中止が発表され、オンライン映像配信プラットフォームを活用しての実施に切り替える方針が発表されている。(世界のEdTech系カンファレンスの紹介についてはこちら)
世界中で多くのEdTech事業者が今回の未曾有の危機的状況下、各社ができることを模索しながら迅速に動いていることは社会的に非常に意義のあることである。一方で、EdTechを活用した自宅学習が、これまで教室内で行われていた授業をすぐに代替できるわけではないということも改めて認識しておきたい。これまでの記事でも繰り返し述べてきたように、単に動画講義や学習アプリケーションを配布しても、これまで教室内で対面で行われてきた生徒個々人の進度や学習姿勢に合わせたコミュニケーション等は容易に再現できるものではない。EdTech事業者は「生徒が自宅学習を行う場合、これまで教室内で実現されていた価値のどのようなものが失われてしまうのか、またそれを再現するにはどのようなサービスを提供するべきなのか」といった生徒の学習体験(UX: User experience)全体を考慮の上でサービスを作り込むことが重要である。
新型コロナウイルスの影響が今後どこまで深刻化するか不透明な状況下、全ての教育関係者が一丸となって、生徒が学習を継続できるような努力を行わなくてはならない。EdTech事業者は改めて生徒の目線にたって良い学習を継続できるようなサービスを開発・提供し、また教育者もそれをどのように活用するか試行錯誤する等、全ての関係者がこの未曾有の危機を乗り越えるために、利害関係にとらわれずにそれぞれにできることを模索していく必要があろう。
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