第18回教育最前線 – 国内の塾におけるEdTechの価値事例「野田塾」編


日本国内の教育においてEdTechはどんな価値があるのか、塾の皆様にインタビューしながら探っていくシリーズの第2回目として、愛知県を中心に66教室を運営する野田塾の三輪宏塾長と川原英樹執行役員にatama+ EdTech研究所主席研究員の森本がお話を伺いました。


授業力にとことん磨きをかけてきた歴史

野田塾は「未来にはばたく優れた人格の育成」を理念に掲げ、1953年の創業から「学ぶ楽しさ」や「努力の大切さ」を伝えてきた伝統ある塾だ。「チョーク1本で教育改革を」を合言葉に模擬授業大会を主催している塾としてご存知の方も多いだろう。

同塾が特に力を注いできた授業力について三輪塾長はこのように語る。

「塾の生命線は何といっても授業力です。社内研修をおこなったり、模擬授業大会で他塾と切磋琢磨したりしながらより良い授業を追究しています」

他塾の講師の授業に大きな衝撃を受けることもあるという。

「数十年前に拝見した授業でも、今も鮮明に覚えているものもあります。講師も生徒と同じように、謙虚な気持ちを持ってしっかりと学び続けることが大事だと考えています」

授業力を高めることにこだわり続けてきた三輪塾長は「授業を磨く観点も時代の中でずいぶんと変わってきた」と振り返る。

「模擬授業大会を始めた頃は授業の論理展開を重視してきました。内容がモレなく、ダブりなく、筋の通ったものにする。そのような分かりやすい授業をウリとしてきたのです。近年では、授業の分かりやすさに加えて、生徒のやる気を引き出すことの重要さが増しています」


生徒への提供価値にこだわるから、変化する。正しい方向に変化するために、大人も学び続ける

授業への強いこだわりを持っているからこそ、同塾は時代に先駆けて先進的な取り組みを行ってきた。特に、2014年に学習用のタブレット端末「nPad」を導入したことは話題になった。

「先代の小川塾長は時代の流れを良く見ていました。今後はEdTechが必ず業界に広がってくると考え、当時、先んじてEdTechを活用した授業の導入を決めたのです。

今では授業配信の様々なサービスが普及し、どこでも分かりやすい授業を受けられるようになりました。しかし、2014年はそこまで広がってはいませんでした。それでも小川塾長は『生徒により良い教育を届けるためにチャレンジしよう』と社員を鼓舞してくれました。

これはほんの一例ですが、生徒への提供価値にこだわって、私たちも時代にあわせて変化していかなければいけません。タブレットを使った学習も、ひとつの手段ですから、今までの指導と対立するものと否定するのではなく、うまく使いこなしていくことが求められているのだと思います」

このように時代の流れを読み、先駆けて変化を取り入れてきた三輪塾長は、塾の職員も学び続けることの大切さを説く。

「昔とは変化のスピードが違うと感じます。でも、そのこと自体勉強をしないと分からないのです。意識しないと世の中の動きが読めなくなってまうからこそ、本屋にどのような本が平積みされているかを眺め、実際に本を読むなどして、学び続けることを大切にしています」

三輪宏塾長


EdTechで”どこが分からないか”がすぐに分かるようになった

atama+は一人ひとりの理解度を診断し、弱点となる根本原因を特定し自分専用カリキュラムを作成する。同塾では、講師による一斉授業を受けたのち、残りの時間(全体の約3~4割)でatama+の学習をしている。導入後の価値について川原執行役員はこのように語る。

「過去学んだ単元にさかのぼって弱点を学習する生徒が一定数いました。この点について、我々の指導にも伸びしろがあるということを謙虚に見つめ直す必要があると感じました。

一方で、学んだことも自然に忘れるものであると再認識しました。このことはデータからも明らかです。

EdTechを活用することで、塾のカリキュラムの内容を学びながら、過去の抜け漏れも的確に分かります。それにより弱点がなくなり、広い範囲から出題される模試での成績が安定しますし、入試本番でも安定した結果になると思います」

実際に、atama+で週60分以上学習した中学3年生71名を対象に、愛知全県模試の第1回(2021年3・4月)と第3回(2021年7・8月)について数学の平均偏差値の伸びを調べた結果、2.62向上したことが確認できた。



EdTechがあるから、生徒の小さな変化も見逃さない

同塾では細かい変化に気づき、生徒へ声をかけることを大切にしている。これは人ならではの価値だが、その価値も向上しているという。

「塾に生徒が来ていたら必ず全員に声をかけるようにしていますが、EdTechで生徒の情報が今までよりも詳細に把握でき、コミュニケーションの質と量が飛躍的に向上しました。

特に、昨日より今日、今日より明日と生徒の変化を見逃さないようにしています。同じような学習時間でも、合格した単元など中身は確実に変化していますからね。それがデータがあることでよりはっきり分かるのです」

EdTechがあるからこそ、生徒の学習過程が詳細に分かり、人が声をかけることで生徒に勇気を与えることができる。このことを川原執行役員は、人とAIの「足し算」ではなく「掛け算」であると表現する。

「ずっと理科が苦手で、学習から逃げる傾向のある生徒がいました。この生徒が、ある時から粘り強く学習に取り組むようになったのです。学習データを見ていればこのような変化をタイムリーに把握できます。生徒が塾に来る前に、データを確認し、顔をあわせた瞬間に、苦手なことから逃げずに頑張ったことを褒めることができるんです。保護者の方にも、以前よりも早く生徒の変化をお伝えすることができるようになったとともに、精神的な成長について根拠をもって伝えられるようになりました」

苦手なことに取り組むことは、誰しも気が進むものではない。だからこそ、その過程を見守ってくれる塾の先生や保護者の存在は生徒の心の支えになる。この苦手に向き合い、それを乗り越えた経験はきっと生徒にとってかけがえのない財産になるだろう。さらに、こうして成長した生徒の存在は、一緒に学ぶ仲間にも良い影響を与えているそうだ。

同社は絶え間なく授業力を磨いてきたことに加え、EdTechを活用することで人にしかできないことの価値も高めている。その根底には、生徒への提供価値に対する強いこだわりがあるのだろう。


川原英樹執行役員

 

【5つのQ&A】EdTech導入でどう変わる?

Q EdTech導入後の生徒の様子について教えてください

A 想像以上に成績向上の結果が出ています。負担も過度ではなく、生徒にとって想像以上に良い負担だと感じます。(川原執行役員)

Q EdTechを使った指導で気にかけているのはどんな生徒ですか?

A 始めは学力層によって合う、合わないがあるかもしれないと思っていました。しかし、幅広い学力層にAIが最適化してくれるので問題になりませんでした。それよりも忍耐力が比較的低い生徒のことを気にかけるようにしています。ただ、この忍耐力を育成することも私たちの役割だと思っています。非認知スキルも育むことのできる指導を取り入れ、さらに生徒にとって価値のある指導を実現していきます(川原執行役員)

Q EdTech導入において社内の反応はどうでしたか?

A 段階を踏んでいるので、大きな反対はありませんでした。毎年毎年、生徒のためになるように変化をしています。生徒のために変化することは喜ばしいことだと考えてくれる職員が多いように思います(三輪塾長)

Q 今後の展望について教えてください

A atama+でもっと生徒の学力を伸ばしていきたいです。また基礎学力と併せて、思考力・判断力など非認知スキルを併せて伸ばしていくことで子どもたちのの成長を支援していきたいと思います。(三輪塾長)

Q 導入前のご自身にアドバイスをするとしたら?

A 一人じゃないんだよと言ってあげたいです。未知のプロジェクトで、不安もありましたが、プロジェクトを進めていれば、必ず周りにサポートしてくれるメンバーが現れます。(川原執行役員)

2022年3月1日