第21回 教育最前線 – 国内の塾における EdTech の価値事例「M 進(岩手県)」編

日本の教育において、これから EdTech はどんな価値を持ちうるのか? 日々子ども達に接しながら、実践の中で EdTech の効果を体感されている塾が数多く存在しています。その教育関係のみなさまにインタビューしながら EdTech の可能性を探っていくこのシリーズ、第4 回は、岩手県で 1953 年開講という歴史を誇り、現在は幼児から小・中・高校生までを対象として 28 校を運営されている学習塾「M 進」の執行役員・教育事業部 統括本部長 佐々木優様に atama+ EdTech 研究所上席研究員の森本がお話を伺いました。


「岩手を学力推進県に」という目標のためには理数教育の拡充が必須だった

―― 5 年前に amata+をご活用され始めています。当時は EdTech 教材の認知度も現在よりも低かったはず。導入に踏み切ったきっかけは何だったのでしょうか?

M 進・佐々木優本部長(以下同)「実は、岩手県の学力というのは全国的に見るとかなり低いんです。共通テストやセンター試験の平均点が全国最下位という年もあります。ですから、わたし達は使命として『岩手県を学力推進県にする』ということを掲げているんですね。その実現のために特に重要だと考えていたのが理数教育の充実でした。
やはり大学入試においては理数科目の基礎固めが欠かせません。とりわけ最難関レベルの大学や医学部合格を目指すとなると、必須といえます。理系科目、中でも特に数学の基礎力を早めに完成させて、全国で戦えるレベルにまで引き上げたい、そういう狙いがあって atama+の導入を決めました」

―― 教材採用の際に、決め手となったのは何でしたか?

「やはり現場で指導にあたる中で、特に数学や理科でつまずきのある子に接していると『苦手を解消するためには、いまやっている単元よりも前の学習、いま在籍している学年よりも前の学習に戻らないといけないのではないか?』と感じる場面がもともと多かったんですね。
atama+を使えば間違えたら自動的に関連単元への『さかのぼり学習』ができますから、それが決め手となって導入を決めました」


定期テストから共通テスト対策まで、幅広い用途にフィット。
難関校を目指す生徒には、数学の早めの基礎固めとして活用

―― 具体的にはどのようにお使いになられていますか?

「学年によって、また目指している大学によって atama+の活用方法は変わってくるんですよ。
例えば東北大学などの難関国立大学や医学部を目指す生徒であれば、高 1 のうちに atama+で数学 IIBまでの範囲を、高 2 の間に数学 III までを終えておきたいね、と促しています。紙の問題集でそこまで自主的に進めるとなると身構えてしまうかもしれませんが、 atama+であればそういった先取り学習も自律的に進められると感じます。最近では中学 3 年生で数学IA を終わらせている生徒さんも出てきています。
また、地元ということで目指す生徒の多い岩手大学ですと、数学に占める共通テストの割合が大きいので、その場合には高 3 の夏休みまで atama+をしっかりやっていくことで着実に対応力がついています。受ける大学によっては大学入試の時期まで atama+で問題演習をしっかり継続することがそのまま対策となる。ですので、対応できる学力のレンジがとても広い教材だと感じています。
内部進学や推薦入試を考えていて、学校の定期テストが重要になってくるという生徒さんにも有効です。ですから、どの学力帯の生徒さんにもご提案できますね」


生徒の「がんばり」が可視化できる。
だから、二者面談、三者面談もよりスムーズに

―― 生徒さん、保護者さんとはどのようなコミュニケーションを取られていらっしゃいますか?

「atama+は単元別にしっかり完成させていきますから、学校の定期テストにまず強いんですね。ですから定期考査の準備期間に声をかけて、しっかりと該当する単元をやり切ってもらえるように意識しています。
また、夏休み・冬休み・春休みといった講習会のあるタイミングで『この長期休みの時期にatama+で習得する単元数をいつもより増やしてみよう』と声かけをしています。ずっと同じ調子でがんばり続けるより、メリハリを持たせて使うことも生徒によってはいいのかもしれません。
あとは面談で『いつ頃までに atama+でここの単元まで終わらせられるといいよね』と個々人に合わせて話をして、生徒さんが目標を把握できるように心がけています。どのご家庭とも年間 2~3 回の三者面談をしていますし、生徒との二者面談であれば月 1 回ないしテスト毎にしていますから、直接話をする機会が多いんですよ」

―― 面談をコンスタントに月 1 回以上とは、生徒さんやご家庭とのコミュニケーションを非常に大切にされているのですね

「保護者の方も含めた面談は、夏と冬に必ず、あとは進級のタイミングでしょうか。できるだけ生徒さん個人と対話する時間を大切にしたいと考えています。これは思わぬ副効用なのですが、atama+を導入してから面談時のコミュニケーションが以前よりも取りやすくなったんですよ。
というのは、atama+での演習状況を見ていれば、その子がいまどの単元にどの程度熱心に取り組んでいるのかを把握して臨めるので、面談の冒頭で『最近、○○をすごくがんばっているね』といったように生徒の努力を具体的に認めてあげられるんです。そうすると生徒さんもモチベーションが上がりますし、『先生は見ていてくれているんだ』と感じられますから、そのあとの話もスムーズに進みますね」

佐々木優本部長

生徒に合わせて atama+を最適に提案。大学入試対策「映像授業」との相性も◎

―― M 進さんは岩手県下で合格実績ナンバーワンの進学塾ということで、多彩な講座をご用意されていますよね。そのラインナップの中での atama+の位置づけや、どのようなご提案をされているのかを教えてください。

「はい、具体的な例をご紹介しますね。
新規で入塾のお問い合わせをいただいたときには、まず定期テストや模試の結果を確認させていただくことが多いんです。その結果をみながら atama+のトライアルをご提案しています。それで体験して頂くと、たいていの方が『よかったので atama+もやります』ということになるんですね。やはり普段の学校のテストだけではなく、atama+を実際に体験していただく方が、ご自身の得意分野・苦手分野をより実感していただきやすいようです。
また、体験しているうちに自分の苦手なポイントが発見され、それが解けるようになる。一度そういう出来事を経験しますと、『これを続けていけばきっと力がつく』という納得感を持って学習を開始できるのだろうと思います。
いまお話ししたのは入塾検討の際のパターンですが、中学部から高校部の持ち上がりの生徒に関してはまた別の活用ポイントがあります。中学時代から atama+での学習をスタートしておいて実力の定着を図り、自分でどんどん進める生徒ならば先取り学習を、そうでない生徒さんであっても確実に基礎を固めていってもらいます。その勢いのまま高校でも学習を継続していき、atama+で必要な学習を習得した後志望先に応じて映像教材などで大学受験に移行する、という進め方をご案内しています」

―― 中学から高校への持ち上がりがスムーズになったといま伺いましたが、中高の学習の接続について、atama+の導入前後で変化はありましたか?

「atama+を導入する以前は、高校生になってからの最初の定期テストの数学で大失敗してしまうというケースがちらほらあったんですよね。県内のトップレベル校に進む生徒さんで、公立中学時代はいつも校内で上位にいたのに、高校入学と同時に周りのレベルが急激に上がって、学習内容も深まり、それまで一度も取ったことないような悪い点数を取ってしまう。
そして心理的にもつまずいてしまうーー。これって高校生活のスタートとして非常にもったいないことですよね。
それがいまだと、中 3 から高 1 に上がる春休みに atama+で学ぶ時間数を増やして数学にどんどん取り組むようにしていますので、高校受験を乗り切ったそのままの勢いで進んでいけるんですよ。こうすると明らかに高校入学時点で数学という科目に自信が持てているように見えますし、数学がうまくいっていると他の教科も連動してうまくというケースが多いので、学校での定期テストの総合順位の高い生徒が増えたという手ごたえを感じています」


勉強が苦手な生徒こそ、小さな成功体験を積み重ねて、自立して学べるように。

―― 成績面で効果が出ているとのことで非常にうれしく思います。そのほかにも atama+を導入して、高校生の指導にあたる中で感じていらっしゃる変化があれば教えて下さい。

「自ら課題意識をもって取り組む生徒が増えたように感じています。我々としては最終的には「自立的な学習」というものを目指しています。もちろん、学校の成績が上がる、志望校に合格するという目標を達成することは重要ですが、自立して学ぶ姿勢を身につけるということが生徒本人にとって非常に大切ですから。しかし、生徒によっては学習到達度も、学ぶ姿勢においても、かなり厳しい状況に置かれているケースだってあるわけです。
それが atama+ですと、自動的にその生徒にとって必要な単元までさかのぼって学習できますから、『できた!』という感覚を積み上げることができるんですね。わからなかったところがだんだんとわかるようになってくる。そうすると少しずつ自信がついて、自分で勉強の仕方を考えられるようになるんです。『次はこの単元をできるようになりたい』とか『ここが分からないから相談してみた』とか、自分で何が問題なのかを考えて、それを解決するための行動が取れるようになってくる。atama+で学ぶことで自立的に物事に取り組む力が身についてきているんじゃないか、とそばで見守っていて思います」

―― 出題と採点は AI に任せて、先生は生徒のコーチングや学習のコーディネートに注力する。atama+をまさに理想的に活用して下さっているお話が聞けて、EdTech を日々研究している我々としても大変感激しています。

「いえいえ、atama+が教材として日々アップデートしていっているというのは感じていますよ。ですからわたし達、現場の教師も常にアンテナを張り巡らせてアップデートしていきたいと考えています」


部⾨の壁をつくらず、シームレスな指導を実現。
⽣徒とは 10 年以上の⻑いお付き合いになることも

―― 社内の体制についてお伺いします。中学部と⾼校部の社員間での業務分担について教えてください。

「M 進では、基本的にどの校舎の社員も中学部と⾼校部の両⽅を受け持つという仕組みになっています。わたし⾃⾝も中学 3 年⽣の講習の授業を担当しています。また、映像授業メインの校舎の職員であっても他校舎での講習を兼任したり、ホームルームや⾯談を担当したり。
⾼校部所属の講師だからこれはやらない、といった決まりはありませんね」

―― ⼩中⾼と部⾨ごとにカルチャーが違うとか、そういったことはないのでしょうか?

「部⾨間の壁というのは特に感じません。⻑い⽣徒さんですと、⼩学 3 年⽣や 4 年⽣から通い始めて、⾼校 3 年⽣まで続けてくれる⼦もいます。わたし⾃⾝も中学受験のクラスを受け持っていますが、以前そこで担当した⽣徒さんがいま⾼校 2 年⽣、3 年⽣になっています。
感慨深いものがありますね。
ですから、1 ⼈のお⼦さんに本当に⻑期間にわたってスタッフが携わりますし、そうすると⽣徒さんもスタッフに慣れている、親しみを持ってくれている、という良い⾯があります。
⼩学部・中学部のある校舎、⼤学⼊試対策の映像授業⽤の校舎と、年齢によって校舎が変わることが多いですから、1 ⼈のお⼦さんが途中で校舎を移って M 進に通い続けてくれるということになるのですが、やっぱり別の校舎に進んでもそこに顔⾒知りの先⽣がいたりするんですね。講師の側も、わけへだてなく、この⼦は中学⽣だから、⾼校⽣だから、といったことにこだわらずに対応しています。うちはそういう⽂化ですね」


中・⾼・⼤学受験、すべての知識を備えていればこそ⼦どもの未来を⾒据えた指導ができる

―― 中・⾼・⼤すべての受験知識をインプットするというのは、社員にとって⼤きな負担なのでは?

「たしかに、中学受験、⾼校受験、⼤学受験とそれぞれ範囲も傾向も異なりますから、すべてに対応するというのは⼤変に⾒えるかもしれませんね。けれども、この仕事に必要な知識ですから。
弊社では、各学年の説明会⽤の資料を内部でつくっていますし、その資料を社内で共有して⼊試の傾向や知識を共有しています。講師個⼈の負担がひたすら⼤きくなるというより、社内⼀丸となって、スタッフみんなで常に知識をアップデートしています。
むしろ、中学受験、⾼校受験、⼤学受験とそれぞれ完全な分業にしてしまうと、説得⼒が持てないんじゃないでしょうか。中学受験を担当しているときに、『いまの⼤学⼊試はこうなっているんですよ。保護者の⽅の時代とはこんな点が違うんですよ』ってお話ができないと、授業に厚みも出てこないんじゃないかと感じますね」

―― 授業に厚みを持たせるというのは、具体的にはどういうことでしょうか?

「例えばわたし⾃⾝、いまも⼩ 6 の中学受験クラスを担当していますが、その中で⼦どもたちに『みんなが⽬指すかもしれない盛岡⼀⾼の⽣徒ってこういう感じなんだよ』とか『⼤学⼊試ってこんなふうに変わってきてるから、いま君たちがこういう⼒をつけておくことが⼤切なんだね』って話すと、⼩学校 6 年⽣って本当に真⾯⽬に聞いてくれるんですよね。響いているな、と感じます。
だから⼩学⽣の⼦にも未来の⾼校⽣活や⼤学⼊試の話をできるってことが、授業に奥⾏きをもたらしますし、勉強の内容だけでなく、⼦どもたちに、将来どんな⾃分になりたいのかな、どんな進路のために何を勉強したらいいのかな、って考えるヒントを⽰せるかもしれない。
ですから、社員は⼩・中・⾼のすべての知識を学んだ上で、すべての⽣徒さんに 1 対 1 でも
対応できるように臨む。それこそが塾としての望ましい姿だと我々は考えています」

―― まさに教育に関わる者として、襟を正す思いになるお話でした。本⽇はどうもありがとうございました。


第21回 教育最前線 - 国内の塾における EdTech の価値事例「M 進(岩手県)」編
2022年12月1日