第28回教育最前線 – 国内の塾におけるEdTech の価値事例「進学塾 MUGEN」編「無限の可能性を引き出し、夢を実現する」

日本の教育において、これから EdTech はどんな価値を持ちうるのか? 日々子どもたちに接しながら、実践の中で EdTech により教育の価値を高めている塾が数多く存在しています。教育関係者のみなさまにインタビューしながら EdTech の可能性を探る本シリーズ。今回は、2008 年に創業、2010 年に法人化され、現在は鹿児島県内に9 校舎を展開されているMUGENの小牧聖代表、坂元良教務部長、坂元志穂教室長、お通いの生徒さん方にatama+ EdTech研究所 所長の森本がお話を伺いました。


集団指導塾として創業するも、翌年に“生徒が主役になる”ことを目指しMUGEN メソッド学習指導へ全校をモデルチェンジ。そこから15 年間で地域に愛される存在へ。

小牧聖代表(カメラ越しにこれから授業が始まる生徒さんと挨拶をされている時の表情)

――本日はどうぞよろしくお願いします。まず、MUGEN の概要についてお聞かせください。

2008 年から小中学生を中心とした「進学塾MUGEN」を展開し、2018 年から高校生専門校舎「ハイスクールMUGEN」を開校しました。ありがたいことに年々お選びくださる生徒さん・保護者の方々が増えておりまして、今年度も新規開校を行いました。ある校舎では生徒さんのお母さまが「MUGEN が本当に好きなので私も働きたいです」と講師になってくださったくらいです。

企業理念として「全ての人の、無限の可能性を引き出し、夢を実現する」を掲げており、生徒さん・保護者の方々も、従業員とその家族の皆さんも幸せになることを追求しています。

しっかりした教室を作ることを第一に考えて、広がっていくのは徐々にで良い、このことを大事にしています。

―― 創業2 年目に自立型学習のMUGEN 式メソッドにモデルチェンジをされています。どのような背景があったのでしょうか。

創業時、私(小牧代表)は43 歳で、撤退される塾を引き受けさせていただいてのスタートでした。楽しくて成績の上がる塾を目指し全員でまさに奮闘しました。4 か月で3 校舎を開校、夏も冬も300 名を超える生徒さんが集まってくれました。必死で乗り越えました。

しかし、もやもやも残ったのです。「中学時代に手取り足取り教えた生徒さんが高校で伸びないのはなぜか?」「生徒さんが集まればそれでいいのか?」「自分の子どもをこの塾に通わせたいか?」「何のために独立したのか?」「何のために働くのか?」と。定期テストの予想問題や出そうな問題を塾で用意すればするほど、生徒さんは用意されることが普通になってきます。楽して高得点を取れてしまう経験をすると、次もそれを期待してしまいます。しかしそれは本当の意味で教育なのか、自分達がやりたい教育だったのか、と自問自答を繰り返していました。

―― 「やりたい教育」はいつ頃からお持ちだったのでしょうか。

若い頃からです。当時、あこがれていた塾の先輩がいました。その先輩は、教室にコピー機の無い時代だったのに朝から生徒さんひとりひとりに合わせたプリントを作るのです。「この生徒さんはきっとここの内容が必要だろう」、「この生徒さんはここまで理解できるだろう」と。このような「生徒さんが学びの主人公になる」教育をしたいという思いが心の中にずっとありましたし、この先輩のエピソードを社員にもよく話していました。

―― その結果、大きくモデルチェンジをされたのですね。

はい、このモヤモヤと向き合った結果、現在のMUGEN 式メソッドに大きくモデルチェンジを行ったのです。怖さはもちろんありました。当時の生徒さんは集団指導を期待して通塾してくれていました。やるとしても準備にじっくり時間をかけようとも思いました。しかし社員達が「来年度からやっちゃいましょう。やりたい教育ができて、それが生徒さんのためになるのですから!」と言ってくれました。「それなら来年度からだ」と決めてからは1 か月で準備をしました。その1 か月は皆で一生懸命働き、生徒さん・保護者の方々にご説明しました。結果としてはモデルチェンジを理由にした退塾者はゼロ名で新年度を迎えました。なぜこのモデルなのか、その志を社員、生徒さん、保護者の方々で共有することができたこと、初動からの熱意をそのまま伝えるところまでやり切れたことが成功要因でした。今振り返ってもよくこの意思決定をして、よくやり切ったなと思います。ただ、社員の熱意が高い状態で行えたので、一気にやり切ったからこそ良かったなとも思っています。


生徒さんのためになることを最優先に。
教えることを手放し、本気で生徒さんに接することで勉強の価値を伝えていく。

―― とても勇気あるご決断だったと思います。MUGEN 式メソッドとはどのようなメソッドなのか教えください。

私たちのメソッドの本質は、講師が子どもを変えるのではなく、子ども自身が「自分はがんばれる存在だ」という気づきを促すことで学習意欲を高めることにあります。

受け身学習では、教えてもらうことや聞くことが勉強だと思い、ひとりで勉強が出来なくなってしまいます。また「自分で分かった!できた!」の感動を味わえません。MUGEN では、学習と意欲の両方において、「受け身」ではなく「主体的」であることを重視しています。

自分で考える習慣がつき、自分で主体的に行動する習慣がついた生徒さんは、高校生、大学生、社会人になっても伸び続けて行きます。この習慣がつくことが早ければ早いほど伸びます。

―― 多くの教育者の方々が共感されるお話だと感じますし、実現しようとご苦労なさっている方々が多いとも思います。具体的にどのような接し方をされるのでしょうか。

まず、大人から温かく見守られている安心感を生徒さんが感じることが必要です。これがやる気を高め、勇気をもって積極的に学ぶ姿勢を生みます。

例えば、よく「承認」という言葉が使われます。私たちは、「結果承認」よりも「行動承認」、「行動承認」よりも「存在承認」を行おうと意識しています。「結果承認」は、例えばテストの結果を承認するということで、これは結果が出たタイミングでは有効ですが、結果が出ないとできません。

続いて「行動承認」とは学習時間や取り組んでいる姿を承認するということで、頑張っている生徒には有効ですが、これから頑張ろうとしている生徒さんにはできません。最後の「存在承認」は存在そのものを承認するのです。前の2 つに比べて話すタイミング、間の取り方、声掛けの内容、こちらの表情、全てが重要になってきます。声掛けのパターンがあるわけではなく、生徒さんに対する深い愛情を持った先生が、注意深く生徒さんのことを気にかけるからできるのです。

結果承認や行動承認は「褒める」という行動にも近しいところがあります。褒めれば生徒さんも喜んでくれますが、それを繰り返していくうちに「褒められるために頑張る」という間違った方向に進んでしまう場合もあります。こうならないために「勇気づけ」をしようというのがMUGEN の指導理念です。上の立場から生徒さんに話すのではなく、対等な立場として I message を使って話していきます。そして「今はできなくても、きっと出来るようになる!」と「未来承認」までいきたいのです。

結果として生徒さんが、①自分を好きになること、②努力することを好きになること、③人を好きになること、④人に役立つことを好きになること、⑤学ぶことを好きになること、これらを通じて「自分はがんばれる存在だと自分を信じて生きる力を育む」ことが教育理念です。①から⑤はどの順番でも良いですし、1 つだけでも良いです。

城⻄校に⼤きく貼られていた直筆のメッセージ

坂元良教務部⻑(MUGEN設⽴の2008年に⼊社。ニックネームはムック先⽣)

―― 承認行動ひとつとっても、そこまで深く社員の皆さんで共有しながら運営されていらっしゃるのですね。

そうですね、生徒さんと本気で向き合えば向き合うほど、難しさを感じる社員も多いと思います。一方で、彼らが感じている難しさは、生徒さんと本気で向き合っているからこそ生まれる心情ですから、大切だとも思っています。ですから業績だけを意識した校舎拡大はせずに、品質を落とさずご提供できるなと判断したタイミングで新しく開校するようにしています。


教育理念を実現するためのMUGEN 式メソッド。

―― 本日は校舎の見学もさせていただいておりますが、校舎内の運営において教育理念を実現するための仕掛けがたくさんあるように感じます。

はい、社員一丸となって私たちの愛情を生徒さんに届ける仕掛けも考え抜いてきました。メソッドの本質は2 年目から変わりませんが、内容自体は年々ブラッシュアップしています。

本当は社外にはあまりお出ししないことではあるのですが、本日はせっかくなのでいくつかご紹介させていただきます。ここからお話しすることはMUGEN の全てではなく一部だとご認識ください。

―― 先ほど、ある生徒さんが「PDCA の記録」を私に見せてくださいました。

はい、「PDCA の記録」というオリジナルの冊子を生徒さん全員が持っています。校舎に来て数コマ受講する訳ですが、1 コマ目の最初の時間に、当日のスケジュールと意気込みを書き、担当講師に見せます。担当講師はここで必ず生徒さんとアイコンタクトを取り、コメントを書いて手渡しで返します。ここで生徒さんの様子が普段と違ったら気が付くことができます。

⽣徒さんのエネルギーが詰まったPDCAの記録

―― 先ほどの生徒さんも「過去の記録も持ち歩いているんです。落ち込んだ時に見返すことで今日も頑張ろう!と思える日があります」と仰っていました。

生徒さんは1 コマ毎に自分の学習した内容を1 行でまとめます。そして最終コマの後に1 日の振り返りを記入して、担当講師に見せます。ここでも担当講師は手書きコメントを添えてアイコンタクトをしっかり取りながら返します。1 日の学習の中で全てが順調に進むとは限りません。ただ、最初と最後は担当講師との愛情のあるコミュニケーションを取ることで前向きな気持ちになってもらいたい、そう願ってこの運用を取っています。数年たっても「この日はこうだったな、この時期の自分は頑張っていたな、先生もそれを見ていてくれたな」とすぐに思い出せるのでしょう。

PDCAの記録の確認を終えた講師さんが⽣徒さんに渡す様⼦

―― 他にも掲示物や生徒さんが持っている冊子、プリントなど教室の様々なところで手書きが多くありますね。

手書きというアナログな手法をとることで感情をより分かりやすく伝えることができると考えています。例えば、夏期講習で使う学習冊子の表紙には毎日の学習が終わったかどうかチェックできるようになっているのですが、生徒さんも講師も表紙にメッセージを書いていきます。この冊子を見ると生徒さんが「夏で成績めっちゃ上げる!毎日6 時間以上はする!!」と大きく書かれていますね。これを本人が自然と書いてくれるのが目指している姿のひとつです。また、講師からも「こんな努力の結晶、初めて見た!」と書かれていますね。講師からの素直なメッセージを熱く伝えてくれて嬉しく思います。

夏期講習の表紙


愛情が伝わりやすい設計を作るのは本部の仕事、愛情を注ぐのは現場の仕事。生徒さんが元気になって帰宅するために。

―― 至るところに理念が浸透していくための仕掛けがあるなと感じます。

生徒さんへの愛情を持っていることは前提ですが、その愛情が伝わりやすい設計をしておくことは、とても意識しています。愛情が血流だとすると、仕掛けは血管です。愛情が伝わりやすい設計を作るのは塾としては本部の仕事、愛情を注ぐのは現場の仕事、的確に届けるためには両方が必要です。

生徒さんは学校に行って、部活にも行って、学校行事もあって。時にはくたくたで、傷ついた状態で教室にたどり着きます。その時、目と目が合うと、字を見ると、生徒のことが分かって、コミュニケーションが取れます。教室に来た時よりも帰る時には気持ちのいい疲れと、頑張れたなという自信と、先生や仲間と過ごせた充実感を持って、元気になって帰宅しているかどうか、ここを意識しています。

入塾した時は「宿題は怒られないためにやるもの」と認識していた生徒さんも中にはいらっしゃいます。入塾1 か月2 か月後に校舎での指導が浸透していくと、こういったタイプの生徒さんも「自分は勉強を頑張れるんだ、楽しめるんだ」と自信を持ってもらえるようになります。入塾した時は大人の顔を見れなかった生徒さんが、いつしか目が合うとニコッとしてくれるようになった瞬間は本当に涙が出ますね。こういった生徒さんがたくさんいるのです。

―― アナログを使う場面の設計も意識されているように感じました。

デジタルには情報を残しやすいというメリットがありますが、定型文で表現し始めると定型文に当てはめて生徒さんをパターンで見るようになってしまいます。量は増えるのですが質は下がりますし、指導者のレベルも上がりにくいと判断しました。アナログは手間はかかりますが、温度のある愛情を表現しやすいという特徴があります。

―― 授業中の講師さんの役割について教えてください。

こちらも様々あるのですが、生徒さんの様子についてのコメントを残す仕組みについてご紹介します。顔をあわせない講師間で生徒さんのことを共有できるように、そしてベテランの視点を全員が学べるように、手書きで書いてファイリングし、教室長がコメントを残し、校舎内の講師で読みあいます。

例えば、苦手に向き合っている生徒さんについて「あなたならできる!!と信じて指導している!」と熱意溢れる方針を宣言していたり、やる気が失われている生徒さんについて「どうやったらこの生徒さんのやる気を上げることができるのだろうか、今日はこんなことを話してみた」と苦悩が書かれていたりします。良い点も悪い点も率直に、ただ愛情を込めて書くことが重要です。書いてみると一部の生徒についてしか書けなかったり、内容が浅いことに自分でも気がつくことができます。

校舎内での指導履歴としての位置づけで保護者の方々に見せるつもりで書きませんが、場合によっては授業中の様子を保護者にお伝えする際に使う場合もあります。保護者の方々にお見せするつもりで書いていないからこそ本音が現れますし、保護者の方々が知らない生徒さんの頑張りが表現されていて涙する方もいらっしゃいます。

―― 愛情もスキルも必要だと感じました。どのような過程で講師さんはこの業務ができるようになるのでしょうか。

1 人の生徒に対して数行なのですが、やってみるとデビューした直後は十分に書けません。自立して学習している生徒さんを見て、生徒さんは今どのような状況なのかを理解できないと何を書けばいいのか分からないのです。1 人1 人の生徒さんについて頭の中も心の中も真心を込めて想像すること、それでも分からないことが多いので生徒さんと話せる時間に一生懸命話すこと、こういった行動をとって欲しいという願いも込めています。

過去の分も校舎には残してあるので、講師も過去に自分が書いた内容と今の自分が書く内容を比べることで成長を感じることができます。MUGEN に関わる全ての人が自分の成長を実感できると良いなと考えています。

ある講師さんのデビューした⽇の授業中の記録。ベテランはびっしり埋まる。⾚字は教室⻑からのコメント。


学力向上を確認できたことから全員がatama+を使う設計へ。
上手く使うコツは「手放しにしないこと」「見張るのではなく見守ること」。

―― そのような中で、EdTech の役割はどのように位置づけているのでしょうか。

MUGEN では中学生の全員がatama+で学習しています。2019 年から一部の生徒さんを対象に導入し、学力向上効果を確認できたので、2021 年度からは全員に使ってもらっています。今の中3 生が中1 から全員atama+を使っている最初の学年ですね。現在、外部模試で去年以上の成績の伸びを観測できています。それも、特定の生徒や校舎ではなく全校舎で伸びているので、今のスタイルにして良かったなと手ごたえを感じているところです。

入塾後10 か月以上経過している中3 生全員を対象に県内にある複数の塾が参加する外部模試の結果を分析したのですが、入塾時と比較して、偏差値65 以上が3%から23%に、偏差値55 以上が33%から61%になっていました。偏差値ですから元々高い生徒さんは伸びにくいのですが、それでも全体でも90%以上の生徒さんが偏差値を伸ばしています。

効果として特に強く感じている点を挙げると、①生徒さん本人が学習すべき内容がピンポイントで出てくること、②それを自宅でも学習できるので学習量の担保もしやすいこと、③講師側が効率的に情報を得ることができることの3 つがあります。

多くの成績向上実績が⽣徒さんの⽣の声とともに校舎内に掲⽰されていました。

―― 今まで以上の成績向上が実現されていることは素晴らしいですね。運営あってのことだと思います。頂いた3つのポイントについて、それぞれ教えていただけますか。

では①の「生徒さん本人が学習すべき内容がピンポイントで出てくること」についてです。中学生は定期テストがあり、評定が高校入試に影響しますから、学校の授業進度を意識した学習を行う必要があります。一方、その生徒さんが本当に勉強しなければいけない内容は別にある場合がほとんどです。これまでに習った範囲に遡る必要がある生徒さんもいれば、将来を見据えてもっと先に進んでおきたい生徒さんもいる。ですので、「日々の授業に合わせた学習」と「本人が学習すべき内容の学習」の両方を行う必要があります。MUGEN におけるatama+は、後者の役割を担ってくれています。

最も進んでいる生徒さんは中学3 年生で高校2 年生の内容を学習しています。この生徒さんは将来は医学部医学科に進みたいという志を持って日々の学習に向き合っています。

中学3年⽣のAさんの進捗。数学IIBまで進んでいる。

―― では2つ目の「自宅でも学習できるので学習量の担保もしやすいこと」について教えてください。

成績を伸ばそうと思ったら自宅学習の時間も重要なことは多くの先生方にとって共通認識だと思います。「家庭学習を大事にしたい」ととても強く思っています。主体的な学習ですので見張る訳ではないのですが、週50 分、月に200 分を最低の学習時間にしていまして、今年、この動きをかなり強化しました。成績向上に繋がった1 つの要因だと考えています。

ただ、私たちは、受け身の学習よりも自立した学習、自立した学習よりも主体的な学習を、ということを意識しています。つまり塾から「週50 分は必ずやりましょう」と言われているから学習するのではなく、自分で主体的に学習出来ることをめざしています。今年度の夏休みは「atama+グランプリ」を開催しました。学習時間、長期目標達成率、英単語テストの3つの観点で表彰するよ、と。ちなみに鹿児島県内トップ高校の鶴丸高校に偏差値を26 上げて合格した先輩は夏に1,700 分atama+で勉強したよ、と紹介しました。その結果、トップ5は4,000 分以上、トップ10 も3,000 分以上勉強しています。内容としては先に進む生徒さんもいれば、過去に学習した範囲の復習をする生徒さんもいて、それぞれが学習すべき内容に向き合っています。ここで大切なのは繰り返しますが、主体的に学習に向き合っていること
です。

atama+グランプリの告知ポスターの前で、atama+ポーズをしてくれる⽣徒さん達。

―― 4,000 分、スゴイですね。主体的に取り組んでいる証拠とも言えるのではないでしょうか。最後に3 つ目「講師側が効率的に情報を得ること」を教えてください。

温度を伝えるアナログ、情報を得られるデジタル、と考えています。atama+では、効率的に情報を得られるので、その分コミュニケーションの内容も充実します。家での学習といった今まで見えなかった頑張りが見えるようになりました。「この生徒さんは朝に頑張っているのか」「この生徒さんはこの日からエンジンがかかってきたな」など、今までは話さなければ分からなかったことがデータを見るだけで分かります。

何を使って学習していても、間違いが続けばイライラするのが人間です。でもそこから成長できるのも人間です。その部分を私たちは非常に大切だと考えています。この成長を支援するために大切にしていることは、「手放しにしないこと」、「見張るのではなく見守ること」です。モニターで生徒を管理する訳では決してありません。うまくいっていない生徒さんにこそ「勇気づけ」が必要なのです。うまくいっている生徒さんの行動や結果を承認することは簡単です。しかし、うまくいっていない生徒さんを承認することは難しい。その場で話す言葉や表情や間も大切ですし、その生徒さんと校舎長や講師がどんな関係性を築いてきたのか、ということも大切です。

⽣徒さんとお話をされる坂元教室⻑。教室内は明るい雰囲気で溢れていました。

―― 生徒さんと向き合う信念を感じました。デジタルに限らないお話だと思いますが、さまざまなことが可視化されるからこそ気を付けないと、コミュニケーションがズレてしまうのでしょうね。

同じ言葉でも、言われる人によって感じ方が変わるのも人間の特徴です。生徒さんに向き合うということは、その生徒さんに愛情を注ぐということだと思っています。

学習時間が短い生徒さんが抱える課題は様々です。例えば家庭ではどうしても厳しいというタイプの生徒さんもいらっしゃいます。そういったときは教室に呼びます。atama+のどこかで進めなくなってしまった生徒さんも教室に呼びます。先日もそれで「計算ミスが無くなった」と成功体験を得てもらうことができました。

目の前の生徒さんが学習を上手く進められていない原因にはどんな課題があるのか、考え続けることが大切だと思っています。

―― atama+での学習のお話を頂きました。他に意識されていることはありますか。

最終的にはテスト範囲を見ながら自分で目標設定をして進められることをめざしています。学習を主体的に進めるためには、自己決定が非常に大事です。ですので目標設定のためのガイドラインの整備にも力を注いでいます。考え方を生徒さんに装着していくのです。目標設定を変更した方が良いかなと思う時も、こちらからは選択肢を示すのみです。最終的な判断は生徒さんに委ねています。入塾してから3 か月目までにこの状態にできるよう、はじめは手厚くフォローしながらできるだけ成功体験を積んでもらっています。

教材の特徴をきちんと理解して使いこなすことで価値が高まっていきます。中学時代に身につくことで、中高継続しての通塾を提案することも自然と行いやすくなっています。


学びを止めないために。有事でも耐えられる企業へ。経営努力も惜しまない。

―― 今後の展望についてお聞かせください。

2020 年のコロナ禍がありました。全力で対応して生徒さんや保護者の方々との関係性は強固になりましたが、「有事の際に耐えられる企業でなければならない」ことも強く実感しました。具体的には経営体力面で、自己資本比率、経常利益率を高めています。2023 年度はおかげさまでこれらの指標に加え売上高も含めて過去最高になりました。同時に社員の生活も大切です。この数年間で月額基本給を6万円増加させています。経営面の努力はそれはそれで難しい課題も多くありますが、何かがあっても生徒さんの人生が進んでいくことを止めてはならない、という決意です。

会社の規模が大きくなることよりも、今の生徒さん、保護者の方々、社員全員が幸せになることの方が重要です。そのためにMUGEN のスタイルを磨き続けていこうと考えています。


お使いの生徒さんにお集まりいただき、日頃の学習についてお聞きしました。
司会は坂元教室長にお願いしました。

坂元教室⻑とインタビューに応じてくれた3⼈の⽣徒さん。左からKさん(中1)、Hさん(中1)、Aさん(中3)

坂元教室長)3 人の今年の学習について聞いていきます。まずK さん、夏休み期間中の頑張りはすごかったですね。どんな学習をしていたか、そしてその結果はどうだったのか教えてください。

K さん)夏休み期間中は「1 日3 時間以上」ということを自分の目標として学習しました。部活の後に連続して3 時間学習するようなリズムでした。3 時間の中で「今日はここまで合格させる」という目標を立てて、それに向かって学習していく途中で、ノートができあがっていくのも楽しいです。模試の結果は、目標としていた甲南高校の判定がE 判定からB 判定に上がりました。

坂元教室長)H さんにとってもK さんの頑張りは刺激になっていましたね。

H さん)K さんの頑張りは私にとっても刺激になりました。競争している訳ではありませんしK さんに限らないのですが、周りに頑張れる人がいると思うと、自分も頑張りたいと思えるのです。ですのでK さんのatama+の学習時間を聞くことも刺激になりましたし、自宅では姉の刺激も受けました。そして一番は、教室に来てたくさんの人がいる空間が燃えます。Kさんとも近くの席になることが多いですし。刺激があることで時間以外にも、ノートに計算過程や講義の内容をきちんと書くこと、講義と演習を進めて中途半端に終わらせないこと、などを意識しています。

坂元教室長)H さんの近くには上の学年の先輩も座っていることが多いですよね。席は皆さんの性格を考えて先生達で決めているのですよ。A さんは数検2 級に合格するなど、みんなを引っ張ってくれる存在として周りには年下がいることが多いと思います。

K さん・H さん)そうだったのですね!A さん合格おめでとうございます!

A さん)数検にチャレンジしようと思ったのは、坂元先生が受けた方が良いよって話を全員にしてくれているからでした。英検・漢検もおススメしてくれています。私は小6 からatama+で学習しているのですが、中2 の時に中学数学を終えました。もう「楽しい!」という気持ちで高校の範囲に進んだので、自然と数検も2 級だなと。日々のatama+でも進んでいる感覚はありますが、数検は合格する達成感がありました。目指している高校での進度は速いと聞いているので、今のうちから予習を進めておけると良いなと思っています。

坂元教室⻑とAさん。学年1位になったことで「1」のポーズ。

坂元教室長)3 人ともそれぞれ主体的に学習をしていますね。「主体的」と「自立的」の違いは何だと思いますか?

K さん)自分で学ぶこと…?

坂元教室長)そうですね。例えば、言われた範囲を自分でしっかり進められることは自立的。これも十分素晴らしいのですが、MUGEN の先生たちが良いなと考えているのはその先にある主体的な学習です。誰からも何も言われていないことでも自分で「これをやると良いだろうな」と考えて行動することです。3 人の頑張り方は、先生達が言っていないことを自分なりに頑張っているので、主体的だと言えますね。先ほどのエピソードの他にも自分なりの学習方法を持っていますよね。

K さん)先生に「atama+の英単語を金メダルにしてきて」と言われるので単元を2 周したらよいのですが、僕はキラキラ金メダルにしたいなと思って3 周やるようにしています。

H さん)私はatama+の理科で答えられなかったところをノートに赤ペンで書いて、シートで隠して後からチェックできるようにしています。

A さん)私は数学検定までに範囲を100%にするために、今週は〇%にしようと目標を自分で立てて進めていました。IIB に進んだ後も、IA の内容を忘れてしまうこともあるので、そこがatama+で出てきた時にはしっかりやるように意識しました。

坂元教室長)主体的に向き合えていますね。そういったことが人生のためになると先生は思っています。ここまで、みんなの頑張りとか工夫を教えてもらいましたが、MUGEN に来てから自分はこう成長したな、良かったなと思ってることがあれば教えてください。

K さん)何か困ったときにすぐに相談できる先生がいてくれて助かっています。教科バランスが崩れないように意識するようになりました。

H さん)先生が優しいのは私も同感です。他には、PDCA があるので自分で計画的に進めることができるようになりました。

A さん)私は小4 から通って6 年目なのですが、上のすごい先輩たちのPDCA を見てきました。それを自分に活かせることはものすごい財産です。そこから自分の得意苦手を考えて自分にあった学習を計画できるので暇な時間がありません。更に自宅学習の計画などの作戦も一緒に立てています。

坂元教室長)このように生徒さんが自分の言葉で好きなところを語ってくれるのは嬉しいですし、話を聞いてMUGEN を通じて生徒さんがテストの点数ではなく、どんなところに成長実感を持っているのか分かります。これからも釣った魚を配るのではなく、魚の釣り方を学べるMUGEN でありたいなと改めて思いました。最後に保護者の方々が書いてくださった「MUGEN を選んだ理由」をいくつかご紹介します。

  • MUGEN を選んだ理由は先生の熱意と子どもの将来を考えて構成されている塾のシステムでした。高校受験がゴールではなく、自立して自分の行動を決定できる大人になってほしいと思い、現在も通塾させていただいています。今では全ての先生のご指導のお陰で少しずつ成績も上がってきており、本人も喜んでます。
  • させられるのではなく、自ら学ぶ姿勢を大切にしてくださる塾の方針に共感しています。ただ成績が上がることだけが目標ではなく、自分を高められるように夢に向かって頑張ってほしいという思いでMUGEN を選びました。
  • ただ成績を伸ばすだけではなく、子供の心理状態や環境を配慮して指導してくださることに感謝しています。
  • 一斉授業ではなく、個人のスモールステップで進めることに共感しています。
  • 先生が明るく好印象。そして子供達をたくさん褒めてくださるので、自信がついていっています。親はつい、「こうしたら~」など口出ししてしまいますが、MUGEN では自分で考え決断する力もつくのではないかと思います。息子も、することを自分で決めて進められるところがイイ!そうです。娘は、明るくて元気な先生と勉強できて楽しい!と話しています。
    • ①時間、日数を選べ、部活や習い事が犠牲にならない
    • ②学校帰りに寄れる立地
    • ③詰め込み集団授業ではなく、個々に合った指導が行き届いている。やらされている感を子供が持たない。
    • ④自主学習をする力が身に付き、将来的に勉強方法に困らない
    • ⑤まめな連絡により、先生、生徒、保護者の距離が近い
  • AI など活用した内容を提供しているから

編集後記

当シリーズ8 回目の記事となりました。この少子化の時代に、MUGEN 様はお通いの生徒さんが増え続けています。本文では具体的な経営数値の表記は避けさせていただきましたが、小牧代表からは詳細なご説明をいただきました。そこには、驚くべき優良経営状況がありました。創業年にリーマンショックがあったり、コロナ禍があったりと、有事を経験したからこその「生徒さんの学びを決して止めない」ということと「生徒さんのために全力でがんばる社員とその家族に還元したい」というお考えから経営努力を積み重ねられているそうです。

そして何より生徒さんが増え続けているその背景には、確固たる教育理念、それを実現するために作り上げられた設計、その設計を使って全力で愛情を注ぐ現場の先生たちがいらっしゃいました。本文中に表現させていただいたことはまだまだ一部でして、お話をお伺いすればするほど、愛情の熱を持った仕組みと運営を次から次へと教えていただきました。お伺いしたお話、拝見した教室の温度をできるだけ下げずに紙面に表現しようと四苦八苦しているうちに13,000 文字を超えるレポートになってしまいました。ここまでお読みくださった皆さま、ありがとうございます。

EdTech の活用という側面では、今回は「アナログとデジタル」というテーマを持ちながら執筆しました。EdTech を全員が使う教材として活用していても、アナログが良い部分は確実に存在します。大切なことはそれぞれの良さを理解し、実現したい教育理念に向かって設計と運営の両方で上手く融合させていくことなのだと教えていただきました。日進月歩でEdTechが進化する時代、ツールに合わせるのではなく、教育理念を実現するためにツールを使いこなす時代なのだと感じています。

PDF版ダウンロード:第28回 教育最前線 – 国内の塾におけるEdTech の価値事例「進学塾 MUGEN」編
2023年12月7日