第11回 OECD調査に基づく諸外国のEdTech環境調査まとめ
今回の記事では、2020年4月にOECD(経済協力開発機構)とハーバード大学教育学研究科によって発表された「新型コロナウイルス対策に関する、教育領域におけるフレームワーク」というタイトルのレポートについて、EdTechに関連する項目を中心に紹介したい。
このレポートは、新型コロナウイルスの影響が世界を覆う中、教育領域における各国の政府対応・学校現場の対応などについて、OECDとハーバード大学の協働によって整理されたものである。全体としては「教育領域における新型コロナウイルスの影響に対する各国ごとの施策方針・内容」を中心に、具体的な提言というよりは、あくまで現状の整理としての文脈となっている。
その中で、多くのページが割かれているパートに、「政府が新型コロナウイルス対策としてすべきことチェックリスト」「自宅及び学校現場のデジタル化にあたっての、環境整備に関する各国比較」というものがある。前者については、政府の方針やその実施内容、新型コロナウイルスの影響度合いに加えて、いわゆるお国柄などによる状況差が大きいため、本記事では割愛する。一方で後者は、新型コロナウイルスの影響それ自体というよりは、「オンライン教育が受けられる環境が、自宅や学校でどれだけ整備されているのか」に関する各国の現状を比較したパートであり、日本や世界の現状を正しく捉えるという意味で参考になる部分があるため、今回はここに焦点を当てて内容を紹介したい。
まず「自宅において、静かな環境で学習が可能な子どもの割合」というランキングを発表している。「静かな環境」という言葉の定義は明確には記載されていないが、OECD加盟国全体の15歳の子どもを対象とし、本平均は93%ほどとなっている。一方、日本は90%とOECD平均をやや下回っている。
自宅において、静かな環境で学習が可能な子どもの割合
続いて「自宅におけるインターネット環境の整備度合い」というランキングが記載されているが、グラフから分かる通り、多くの国においては、ほぼ自宅からインターネットにアクセスすることができている。しかし、そもそも環境整備の比率が低い国は、社会経済的な差が開きがちなため、インドネシア・フィリピンなど、同じ国内でも「社会経済的に有利な環境」にいる子どもと「社会経済的に不利な環境」にいる子どもで、約30%ほどの開きがある国も目立つ。
自宅におけるインターネット環境の整備度合い
学校での環境整備に関するデータに目を向けると、まず「15歳の子どもが学校において『1人1台』パソコンが利用できる環境の整備度合い」について触れられている。子ども1人当たり何台のパソコンが学校で利用可能であるかが指標化されており(「1」=子ども1人当たり、1台のパソコンが利用可能な状態)、OECD加盟国の平均は0.8(子ども5人に対して4台のパソコンが利用可能な状態)とされている。イギリス・アメリカなど7ヵ国では1.25以上と子ども1人に1台以上のパソコンが利用可能な状態になっている一方で、ブラジル・ベトナムなど7ヵ国では0.25(4⼈で利⽤できるパソコンが1台)となっているように、国による環境整備の度合いには大きな開きがある。
続いて、「学校の生徒用パソコンの容量やスペック及びインターネット回線の速度は『⼗分である』と校長が報告した学校の割合」というランキングが記載されている。この調査に参加した中国の4省(北京、江蘇、上海、浙江)及び、リトアニア・シンガポールでは90%の子どもが「学校の生徒用パソコンの容量やスペック・インターネットの回線速度は⼗分だ」と校⻑が報告した学校に在籍している。OECD加盟国平均は約60%となっているが、⽇本(「⾼度な技術を有する国」でさえ、と紹介されている)では、約40%に留まっている。
学校の生徒用パソコンの容量やスペック及びインターネット回線の速度は『⼗分である』と校長が報告した学校の割合
さらに、シンガポール・スウェーデンなど4ヵ国では約90%の学校内パソコンが、子どもが自宅に持ち帰ることが可能であり、アメリカ・イギリスでも約80%のパソコンが持ち帰り可能となっている。一方で、その他約50ヵ国においては、持ち帰ることができるパソコンの割合は約30%に留まっている。
学校におけるデジタルを活用した授業準備等に関するデータを見ると、「『教師はデジタルを取り入れた授業の準備に十分な時間を持っている』と校長が判断した学校の割合」というランキングでは、トップは中国の上記4つの省の約90%である一方で、日本は10%前後と、圧倒的最下位となってしまっている。
「教師はデジタルを取り入れた授業の準備に十分な時間を確保している」と校長が判断した学校の割合
学校でのデジタル活用にあたってもう1点取りあげたいのは「『授業でのデジタル活用について専門的に取り組むためのリソースを確保している』と校長が判断した学校の割合」というランキングである。グラフにある通り、トップはシンガポールで、日本はまたしても圧倒的最下位となってしまっている。シンガポールを中心とした上位国を中心に行われているデジタル機器の活⽤に関する実践例としては、「校⻑と教員の間での定例ミーティングを設け、デジタルの活用方法に関する議論を定常的に行う」「デジタル活用の学校内での事例について⽂書で残し、全教員がいつでもアクセス可能な状態にする」などが挙げられている。中国では、学校がオンライン授業を実施するための人員の採用を別途行っていることに加え、地⽅自治体ごとにオンラインでの授業プランを提案する専門家も採用している。
「授業でのデジタル活用について専門的に取り組むためのリソースを確保している」と校長が判断した学校の割合
今回のレポートを読み解くにあたって、図らずも日本の学校のデジタル化における遅々とした現状を知ることとなってしまい、筆者個人としても大きな驚きを持って読了した。インターネット環境の整備度合いや、スマホなどの普及率も含め、決して世界で遅れをとっているわけではない日本において、何故学校に関するデジタル化の指標の値がこれだけ低く出てしまっているのだろうか。データ自体の信憑性や、デジタル化が進まないことについての背景や原因については今回の記事では触れないが、少なくともOECDという国際機関による公の文書としてこれが世に出ているという事実は受け止めたい。
東京都の都立学校全体でのMicrosoft Teams導入などをはじめ、GIGAスクール構想の前倒しなど、新型コロナウイルスの影響を受け、日本全体として教育のデジタル化に向けた歩みが早足に進んでおり、今回のレポートに掲載されている各指標の改善も図られていくと思われる。しかし、ハードウェアやソフトウェアを導入してそれで良しとするのではなく、それらをツールとしてどのように活用するのかが重要である。その点を照らして見たときに、授業にデジタルを組み込む専門的なリソースの有無やそのための準備時間など、教員を取り巻く環境において諸外国との差分はまだまだ大きい。日本全体の教育のデジタル化に向けた昨今の取り組みにおいて、単にツールの導入のみならず、その活用のための様々な環境整備が求められる。
注記:この翻訳はOECDによって作成されたものではなく、公式のOECD翻訳とは見なされません。翻訳の品質と、作品の元の言語テキストとの一貫性は翻訳の著者であるatama + EdTech研究所の責任です。原本と翻訳の間に矛盾がある場合、原本のテキストが有効と見なされます。
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