第12回 教育機関におけるオンライン試験の変遷と現状
はじめに
新型コロナウイルスの影響によって、学校や塾・予備校などの教育機関でオンラインでの授業運営が行われるようになって久しいが、今度はオンラインでの試験実施をどのように行うべきかについての悩みが広がっている。新型コロナウイルスの感染予防のため各教育機関で行われる「試験」は、教室内での筆記や面接などの形式の試験を中止もしくは延期し、エッセイなどの提出型の形態や、オンライン面接などで運営を行う教育機関も生まれつつある。
しかし、教育機関もただ混乱しているわけではなく、各教育機関ごとに様々な方策を検討しており、例えばこちらの記事(オンライン活用の大学、悩む成績評価 「遠隔試験」も)のように、オンラインでの試験実施の方法を試している大学も出てきている。
とはいえ、オンラインでの試験実施にあたっては様々な難題が待ち構えており、韓国では集団でのカンニングが発覚したものの、試験の運営側が気づくことができなかったという事象が報道されていたりと、試験運営方法の模索が続いている。そんな中、「オンラインでの試験運営をサポートする」サービスに世界の注目が集まっている。EdTech領域において「Proctoring exam」「Remote exam」と呼ばれている分野で、一言で言えば「ペーパーレスでの試験運用を実現するアプリケーション」を提供するプレーヤーたちだ。米国ではリアルな教室における試験運営での不正行為・問題用紙漏えいなどを防止するための打ち手としてニーズがもともと高まっていた。欧州ではトップスクールを中心に、大学・大学院自体をオンライン完結でのコース提供を行う流れも増えつつあり、この分野へのニーズが高まっている。
歴史と変遷
グローバルでの主たる登場プレーヤーとして、世界最大の教育事業会社であるPearson(英国)がある。「Pearson VUE」というサービス名でのオンラインテスト事業を運営していて、大量の教材コンテンツに加えて資本力も有するプレーヤーの内製開発によるB2Cビジネスが以前はメインであった。他方、オンラインでの試験運営プラットフォームを提供する会社がB2Bビジネスとして大量のコンテンツを有するプレーヤーと提携した形の、役割を棲み分けた座組みもある。例としては、TOEIC・TOEFLなど日本人にも馴染みのある語学試験の実施(コンピューターがSpeakingテストやWritingテストの採点を実施)がそれにあたる。これは、ETS(Educational Testing Service)と呼ばれる米国の試験運営団体が、Prometric(米国)というオンラインテスト運営プレーヤーのプラットフォームに試験コンテンツを掲載して運営するという座組みになっている。
Prometricは、1990年に米国で創業し、1991年には日本法人を設立。2007年にはETSにより買収され傘下となっていたが、2018年にプライベートエクイティファンドのBPEA社に売却された。就職活動におけるテストセンター(各都市ごとに数カ所設けられており、理数・言語・性格診断などのテストを、受験者が一人ずつブースに入り、設置されたPCで受験)の運営を受託するなど、日本との関わりも深い。Prometricは、免許証やパスポートなどの写真を含めた2つ以上のIDによる本人確認を実施することや、ブースでの受験者の動向を記録するビデオカメラを設置するなど、不正行為を行わせないための様々な工夫をとっている。
これらの例のうち、オンラインでの試験運営プラットフォームを運営しB2Bビジネスとして展開するPrometricのような立ち位置のプレーヤーが、テクノロジーをより活用した形で、グローバルで増えつつある。テスト実施に関するコンテンツは持っていないものの、オンライン試験を実施するそのプラットフォームを開発・提供するスタートアップが、米国を中心に台頭している。その代表例の一つとして、米国のExamityというスタートアップを紹介したい。
Examity基本情報
- 2013年創業(米国)
- 累計US$121Mを調達しており、中でも2019年4月にUS$90Mを調達
- 2019年5月までに400以上の大学や企業が同サービスを導入してオンライン試験を運営しており、ペンシルベニア大学、テキサス州立大学をはじめとする教育機関も同社のサービスを利用していると発表されている。また、現在の新型コロナウイルスの影響下において、米国の多くの大学の成績評価に関連する試験でもこのExamityが多数使われており、米国の司法試験の運営も一部Examityによるものとなっている。
使用シーン紹介
- 試験前
- 政府発行の身分証明書のコピーをアップロードした上で、指紋、顔、音声認識などの生体認証、セキュリティクエスチョンなどを登録し、Examityのアカウントを作成する。
- 上述の情報を元に二重三重のロックをかけ、本人特定がなされないとログインできない仕組みになっている。
- ログインすると、受験生は自分のWebカメラを持ち上げて部屋を360度一周した映像を送信する必要がある。試験の監督を行う役割については、Examityが抱える大量のスタッフが実際にチェックを行う場合と、Examityが開発したAIのアルゴリズムによって受験者の行動をモニタリングし、何か怪しい動きががあれば試験運営側に連絡を入る場合とがある。
- 試験中
- 受験者のPCデスクトップのExamity画面は、全て試験監督が遠隔操作し入力・監視ができる状態になっている。
- 試験の運営側によってExamity上に試験問題が事前に設定されており、受験生はExamity上で解答する。問題形式は4択式や記述式(短文・長文)など、自由に出題可能。試験終了後、答案の内容は試験の運営側に送信され、すぐに正誤判定できる問題は自動で採点され、それ以外の問題(エッセイなど長文での解答が必要な形式)は、試験の運営側による採点の後、オンラインで返却される。
- 生徒に対しては試験実施にあたって、「部屋に一人でいる」「PCを電源に繋いでおく」「デュアルモニターを置かない」「テスト中はWebカメラ、スピーカー、マイクを繋いだままにする」などのルールが伝えられる。
- Webカメラにより任意のタイミングで取得した画像がリアルタイムでサーバに送信され、受験者の登録情報と照合される。本人と異なる情報が検出された場合は、独自のアルゴリズムを元に即座にエラー判定され、試験の運営側に連絡が入る。
- 受験者の音声や映像などから、不自然な行動をAIが検出する仕組みもある。
考察
Examityをはじめとした新興のオンライン試験運営プレーヤーは、その多くが、先述のPearsonのB2C事業とは異なり、B2Bビジネスの事業運営というスタイルを取っている。こうしたプレーヤーは、Examityをはじめとしてグローバルではその萌芽が見られており、ProctorU(2020年にUS$13M調達)、ProctorFree(2019年にUS$5.8M調達)など、新興プレーヤーが徐々に生まれている。
新型コロナウイルスの影響によって、リアルな教室での大規模な試験実施は引き続き困難なことが予想される中、試験がオンライン化されていく流れは止められないだろう。とはいえ、学校や塾・予備校をはじめとしたこれまで試験をリアルな教室で運営してきたプレーヤーが、各々でオンラインでの試験運営サービスを内製開発することは現実的ではない中で、上述のようなB2Bビジネスでの、オンライン試験のプラットフォームを開発するプレーヤーの存在が、今後の日本においても必要となってくるのではないだろうか。
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