第8回 BETT2020参加レポート

2020年1月22-25日、英国ロンドンにて行われた世界最大級のEdTechカンファレンス「BETT」に、atama plus社としてブースを出展し、日本ブースの代表としてスピーチを行う機会に恵まれた。今回の記事では、参加した当研究所研究員によるレポートを紹介する。

最初に断っておくと、あくまで同研究員が回ることのできた範囲での参加レポート・感想であることは注記しておきたい。BETTの会場はロンドンの東にある「ExCel London」という展示場で行われたが、日本でいう東京ビッグサイトのような大規模な会場を丸ごと貸し切っているようなイメージの場所で、出展されているブースを全て回ることは困難であったためだ。

尚、今回のBETTも含めた2019年度内に行われる主要なEdTech関連のカンファレンスについては、以前に投稿した記事を参照されたい。

参加者層について

主催団体の事前発表によると、世界140カ国から約4万人が来場し、約800社がブース出展やキーノートスピーチ、ディスカッションイベントなどを行うという紹介であった。しかし、参加してみた実際の印象としては、確かに世界各国からの参加ではあったが、国々万遍なくというよりはヨーロッパ近郊の団体や教育関係者による出展・来場者が中心だったように感じた。

実施にatama plusブースにいらっしゃった方々も、イギリスで教育系の教材出版をされている企業の方、ヨーロッパ内に学校を複数校経営する方、その教職員の方などであった。近年のEdTechにおける潮流は第1回で掲載した通り中国やインドがその中心と言えるが、そのような国々のブースはあまり見られなかったのはやや残念だった。(シンガポールなどで行われる教育系のカンファレンスの方に出展しているようだ)

ヨーロッパ以外の国々で目立っていたのは、韓国、イスラエル、そしてサウジアラビアだった。特にサウジアラビアは、会場の真ん中に非常に大きなスペースを確保し、自分たちの展示用だけでなく、電源やドリンクも完備したフリースペースを設けているなど、国の勢いを感じずにはいられなかった。

目についたポイント

上述の通り、とにかく広大な会場であるため、全体を遍く見ることができたわけではないが、その中でも特に目についたのは以下2つのトレンドである。

1つ目は、主に学校機関向けの学習管理システムに関する展示の多さである。これは今年に限ったトレンドではないと思われるが、見て回ったブースの中だけでもかなりの数のサービスが展示されていた。印象的だったのは、旧来の「教員による生徒の成績管理」「宿題配信」「メッセージング」といった機能にとどまらず、学校ごとの状況に合わせた個別カスタマイズの自由度の幅をウリにしていたり、プリセットされている教科ごとの学習教材が非常に豊富という点だ。

特に学習教材に関して注目したのは、生物や化学のような具体的な映像や画像で把握することでより理解を深められるような類の科目についてである。先生がホワイトボードや黒板の前で授業をする形式ではなく、2D・3Dなどのデジタルコンテンツを中心にかなり作り込まれた教材が、デフォルトとしてその学習管理システムにパッケージングされているサービスが散見された。メッセージングとして「このアプリケーション一つで教室にイノベーションを」といった方向性のブースが多く、現在の世界の学校現場における共通の課題として、複数のアプリケーションを組み合わせて教室運営を行わねばならない負荷の高さが課題感としてあるようであった。

2つ目は、STEAM教育に関する展示の多さである。第2回の記事でも記載した通り、中国が政府主導でSTEAM教育の普及を進めているが、この流れはヨーロッパでも同様のようだ。中でも、以下の写真のような実際に模型やレゴなどを触りながらプログラミングを学ぶ形のサービス(ビジュアルプログラミング、という言葉が共通言語になっていた)が、幅広い年齢層に対して提供されており、その充実度やブースへの力の入れようは、他サービスの展示とは一線を画すものに見えた。

その他、Google、Appleなど、いわゆるGAFAと呼ばれるIT系企業も軒並み出展をしていたが(GAFAのEdTechへの取り組みについては次回の記事で紹介したい)、その他のIT系企業の取り組みとしては、Zoomという高品質なオンライン通話ツールを提供する会社が大きく出展していた。Zoom社は今回のBETTで、学校教育機関への導入を企図した「Zoom for Education」という新たなブランドの紹介を行っており、実際のデモ画面をその場で触ることができたり、すでに実験的に導入しているパイロット校の教職員の方がブースに立ち来場者に対してどのように授業運営で活用しているかの紹介を行うなど、熱心なプロモーションの様子を見てとることができた。

総括

全体的に、最先端のテクノロジーを活用したサービスというよりも、しっかり地に足のついたサービスの出展が多かったように感じた。教育現場の「かゆいところ」をきちんと捉えた細やかな気配りのあるサービスや、一目見たときに直感的に利用イメージが湧きやすいサービスなど、生徒だけでなく教員や保護者にとってのUX(User Experienceの略。ユーザーがサービスを通じて得られる体験を意味する言葉)がいかに設計されているかを、とにかく丁寧に訴求・説明するブースが中心的だったように思える。

それは言い換えれば、それだけEdTechという領域のプロダクト・サービスが教育現場に浸透しつつある一つの証とも言えるのかもしれないし、テクノロジー単体での価値だけでなく、それを活用する人の力との協働に価値を置くことが、グローバルなトレンドとなってきている、と言えるのかもしれない。

2020年3月30日