第2回 教育領域における各国の動き(前半)

atama+ EdTech研究所ブログの第二回は、国に焦点を当てようと思う。教育領域に対するアプローチが、国ごとにどのような状況となっているのか、国ごとに差分があるとすればそれはどの辺りなのかについて、リサーチした結果をまとめていきたいと思う。今回取り上げるデータにあたっては、日本経団連が設立したシンクタンクである「21世紀政策研究所」が発表した2050年における名目GDPランキング予測を元に、中国・米国・インド・日本・ブラジルという上位5カ国について、2回に分けて取り上げていく。

各国紹介1. 中国

基本情報

人口13.9億人
GDP現在:12.1兆ドル(2017年度)
2050年予測:24兆ドル
インターネット普及率58.4%
教育制度外観・日本と同様の6-3-3-4制(一部地域で5-4-3-4制)
・国内共通の筆記試験である「高考(ガオカオ)」の点数によって入学可能な大学が決まる。
・2018年度の受験者数は約975万人(日本のセンター試験受験者数は約50万人)。「重点大学」と呼ばれるトップ88校に入学することを目指し、激しい受験戦争が起き続けている。

政府の教育領域への動き

向こう30年でGDPが2倍になる勢いで成長している様子からも見て取れるが、中国の近年における成長は凄まじいものがあると言ってよいだろう。中国政府としても、今後より一層の国際競争力強化に向けた、質の高い人材育成を目指し、基礎学力についてはEdTechを中心に効率的な手法を導入することで幅広い層における教育機会のさらなる拡大を企図し、教育ICT環境への積極的な投資を、年間予算4兆円という規模で行っている。

また、中国は古来の「科挙」以来、知識重視・一発勝負による大学受験を重視してきたものの、現代において政府主導による知識偏重教育に対する見直しを始めており、知識の詰め込みに比重を寄せすぎた教育政策への是正も含め、STEM教育を中心に据えた新しい形の学び方を国全体として早期に普及させることを、近年の国家方針として掲げている。これは、2010年ごろより中国国内ではなく海外のトップ大学への留学志向が強まり、直近2018年は約20万人が国外に留学したまま帰ってこないというbrain drain(頭脳流出)が国家的なイシューとなっており、既存の教育政策に対する反発が強まっていることも背景にあるのではないかと言われている。

2016年にはSTEM教育促進の方針を発表し、日本で言うところの学習指導要領である「義務教育小学校科学課程標準」の改定に際してSTEM教育実践を義務教育課程内に盛り込んだことに加え、「中国STEM教育2029革新行動計画」というSTEM教育に関する2029年までの具体的な方針・計画を発表しており、特に上海や深センにおいて先進的な取り組みを行なっている。具体的には、上海に「STEM+教育研究センター」を発足し公教育での実証授業や教員研修を実施している他、深センではHuaweiやTencentなど中国を代表するテクノロジー系企業の支援を元にした「創客教育(モノづくりのできる人を育てる教育という意味)」に注力するなど、学生によるモノづくりの支援を行ったり投資家との接点創出の環境づくりを推進している。

民間サイドの教育領域への動き

先述の通り、政府としては現在、EdTechを含めた教育ICT推進と並行する形もしくはそれ以上の比重をおいてSTEM教育を始めとした先進的な学習内容の推進を目指しているが、こうした動きが出る5-6年前の2010年前後より、テクノロジーの発達と相まる形で、中国における民間教育の動きが急速に活発となってきている。

背景としては、現在の中国における大学入試制度である「高考」を代表とする、伝統的な試験の仕組みは依然として根強く残っており、保護者もこうした伝統的なスタイルの大学受験に対する熱意は変わらず強く教育熱は高い一方で、既存の学校や塾の質にばらつきが多いという背景から、テクノロジーを駆使し、地理的な格差や経済的な格差に因らず品質の担保された形でのサービス提供への需要が拡大し、結果、政府の動きに先立つ形で、民間サービスによるEdTechを中心としたオンライン学習への参入及び市場拡大という流れとなった。特にAlibabaやTencentを始めとした世界屈指のテクノロジー企業を中心に、潤沢な資本をEdTech領域のスタートアップにつぎ込んでおり、直近3年で10million米ドル以上という大規模投資を集めるEdTechスタートアップも8社(※1) 存在する。

※1) VIPKID、I TutorGroup、Yuanfudao、zuoyebang、17Zuoye、SmartStudy、Xuebajun、Entstudy

サービス紹介

Vipkid

Yuanfudao

i Tutor Group

  • サービス概要:中国で2012-2016年にかけて巨額の資金調達を実現したオンライン英会話サービスで、1コマ25分の1:1レッスンもしくは45分でのグループレッスン受講を選択することができる。レッスン教材については英国Oxford大学出版社と提携し、レベル別・単元別に教材ラインナップを網羅しており、その中から作成されるオーダーメイド型の学習カリキュラムに沿ってレッスンが進められる。
  • 主な資金調達先:Alibaba、Goldman Sachsらから累計US$315Mを調達

各国紹介2. 米国

基本情報

人口3.2億人
GDP現在:19.4兆ドル(2017年度)
2050年予測:24.0兆ドル
インターネット普及率78.20%
教育制度の外観・5-3-4-4制を採っており、大学入試制度としては、年7回まで受験することができるSAT・CATと呼ばれる共通試験の点数や学校の成績・エッセイ・課外活動経験に加え、推薦状や面接なども加味した総合評価により選考を行う大学が多い。
・特徴的な取り組みの一つとしては、安全面や教育の質などに対する不満が主な理由で、教員により各家庭を拠点に学習サポートを行うホームスクーリングが認められており、約230万人の生徒が利用。
・また米国では2010年頃からブレンデットラーニング(オンライン学習とリアルな教員による指導のブレンド)が普及し始め、2017年時点で全国学区の7割近くで採択されている。

政府の教育領域への動き

米国では、近年の中国・インドなどアジア諸国の急速な成長の中で、米国としての産業競争力の将来的な低下への懸念から、オバマ政権以降、教育政策の推進を行なっており、中でもEdTechを明確な国家戦略としている。

具体的には、2015年の1年間で40億ドルもの予算を投じて学校内におけるICT環境の整備を行った他、ConnectEDというイニシアチブを発足して「教育におけるテクノロジー活用に関する国家ビジョンを文書化して公開」「教育現場がEdTechを活用していくために必要な知識やアクションのまとめを作成して各州政府に配布」「事業を開始拡大しようとするEdTech事業者のためのハンドブックの配布」(学校における外部サービス導入の際の意思決定プロセスに関する解説といった内容まで踏み込んでいる)といったような多様な取り組みを国家主導で行うという力の入れようであった。

トランプ政権以降は政府としての動きは縮小させ、州ごとの自立的な動きを企図した権限移譲を行なっており、州への予算として年あたり83億ドルのEdTech用の財源を確保し、州ごとのEdTech領域に対する自由度の高い決議を可能にしている。

民間サイドの教育領域への動き

州ごとや地域ごとによる治安の格差や教育格差が激しく、均等な教育が届けられていないという社会課題の解決をミッションとして、政府の動きに先立ち、2010年ごろから米国の特に西海岸のシリコンバレーを中心に、教育領域におけるテクノロジーを活用したイノベーションを目指すスタートアップが勃興し、そこへの投資が集まるようになった。

2010年代前半は、MOOCSと呼ばれるオンライン上での映像授業サービスが主流であったが、ここ数年はどちらかというとLearning Management System(学校管理システム)というような、学校の教室を軸として親と保護者・生徒をオンライン上で繋いだりリアルな関係性を保管する役割としてのサービスへと、その潮流が移っていると言える。

サービス紹介

ClassDojo

coursera

  • サービス概要:スタンフォード大学の2人の教授が始めた、無料のオンライン講義動画配信サービスで、プリンストン大学、スタンフォード大学を始めとした世界トップクラスの大学の講義をオンライン上で受講できるサービス。サービス開始当初は網羅的に分野のラインナップを増やし、無料でのコンテンツ配信を前提としていたが、2017年頃よりコンピューターサイエンス・データサイエンスのコンテンツに注力し、「社会人向けのオンライン教育」としてスキルアップ向けコース&修了書の発行などを通して企業に対する課金をビジネス戦略の主軸としている模様
  • 主な資金調達先:GSV Asset Management、SEEK Groupらから累計US$313Mを調達。

各国紹介3. インド

基本情報

人口13.3億人
GDP現在:2.6兆ドル(2017年度)
2050年予測:14兆ドル
インターネット普及率40.90%
教育制度の外観・5-3-4-4制。インドの北部と南部でやや制度が異なっており、北部は高校が4年間であるのに対し、南部は高校期間が前半後半で2年ずつに分かれている。Grade10のタイミングで行われる統一入試の点数によって、高校後期が変更となる。
・前期高校卒業時に行われる10th Board Exam(文理分けを目的とした試験)と全国共通試験(JEE)が2大テストとなっている。

政府の教育領域への動き

基本的な方針としてはSTEM教育の充実を図るという中国政府と似た方針を打ち出しており、加えてGrade3~12においては数学のカリキュラムにComputer Scienceを加えるなど義務教育過程の中でプログラミングに接する環境構築を推進しようとしている。

とはいえ歴史的な背景も相まって基礎的な教育格差がまだまだ大きく、STEM教育をはじめとした先進的な教育内容に対して政府として大きな予算を投下できているとはまだまだ言い難く、識字率や就学率向上を目指すといったフェーズから抜け出すことが現状できているとは言えない状況となっている(※1)

(※1)2002年の憲法改正によって初等教育が義務化され、就学率は83%まで改善されているが、中等教育レベルでの就学率は現状48%と、未だ大幅な改善が必要な現状であり、特に中等教育では中退率も高く、15歳から18歳の年齢層では約3700万人の子どもが中退し、うち2200万人は何かしらの就業活動に従事しているとされている。

民間サイドの教育領域への動き

政府としては上述の通り識字率や就学率の向上を始めとした基礎教育の充実に比重を置かざるを得ない状況の中、所得水準の中位層以上を対象とした所謂「受験対策」については、民間企業によるサービス提供が盛んに行われている。その加熱に拍車をかける背景として、アジア最難関のインド工科大学を始めとした国立大学を筆頭に、存在感のある州立・私立大学を卒業できると、卒業後間も無く破格の収入を確保できるという経済的な便益へのインパクトが大きく、結果、受験する生徒の親だけでなく親戚や地域住民が受験を支援したり、土地を売ってまで家庭教師を雇う費用を工面する家庭まで存在する状況となっている。

こうしたインド国内の受験戦争の加熱と、それをさらに支えるインドにおける急激な人口増加という状況により、インドの教育市場は世界的に見ても非常に魅力的として位置付けられており、インド発の教育系スタートアップ複数社に対して、国際的に名のあるVCから数百億円規模での巨額の投資が集まる状況となり、大きな盛り上がりを見せている。

サービス紹介

BYJU’S

Toppr

Vedantu

  • サービス概要:インドの大学受験対策にあたって、選抜されたチューターと生徒のオンライン上での1対1レッスンもしくは1:多数のライブストリーミング授業の配信を行なっている。全ての授業は録音されており、録音データによる分析と生徒による授業評価により、レーティングの高いチューターは検索上位に表示されるような設計にしている。
  • 主な資金調達先:TAL Education GroupやAccelらから、累計US$18Mを調達。

次回の記事では、日本とブラジルについて取り上げた後、今回の記事と合わせて国ごとの教育領域の概観から見て取れる考察を述べたい。