第4回 2019年度中に開催予定のEdTech国内外カンファレンス
第4回の今回は、EdTechに関する日本国内外のカンファレンスについて紹介していきたい。カンファレンスという言葉に聞き慣れない方もいらっしゃるかもしれないが、イベント会場などで行われる、当該分野に関する第一人者によるゲストスピーカーや対談などのセッションや、様々な事業者が自らのサービスについてブースを出展し、一般の方向け展示会として開放といったような活動を通してのネットワーキングなどを行っているイベントのことである。イベントによっては、スタートアップによる投資獲得・PRを目的としたピッチコンテストなどが行われる例もある。
こうしたカンファレンスは、その分野におけるトレンドを掴む機会としても非常に有用と言える。EdTechの領域に関しても毎年様々なカンファレンスが日本国内外で実施されているが、今回の記事では、その中で2019年秋から2020年にかけて行われるもののうち、主要なイベントについて紹介し、それらのカンファレンスでこの数年どのようなテーマが取り上げられ、議論が行われているのか、そこから現在のEdTechにおける世界の潮流として得られる示唆について考えていきたい。
主なカンファレンス及びスケジュール
2019年
- 11月4日〜5日 Edvation x Summit 2019@東京
- 11月25〜26日 GET@北京(中国)
2020年
- 1月22〜25日 BETT@ロンドン(英国)
- 3月9〜12日 SXSW EDU@オースティン(米国)
- 3月31日〜4月1日 ASU+GSV Summit@サンディエゴ(米国)
各カンファレンス詳細
1. ASU+GSV Summit – 2020年3月31日〜4月1日@サンディエゴ(米国)
世界最大規模のEdTech系カンファレンスの一つで、45カ国から1,000名にも及ぶゲストスピーカーによる講演や対談セッションが設けられており、毎年10,000名弱の来場者数を記録している。GSVはGlobal Silicon Valleyの略であり、その名の通り、他カンファレンスと比較するとスタートアップの起業家や投資家の参加が多い傾向にあると言われている(ちなみにASUは、主催であるArizona State Universityの略)。スポンサーにもApple、Google、Microsoft、Tencentなど名だたるIT系企業や政府機関が並んでおり、過去10年間の間にはオバマ元大統領、ブッシュ元大統領、ビル=ゲイツ氏などが基調講演をした実績もある。
- ASU-GSV公式ページ
- ASU-GSV紹介動画
- 昨年度扱われたセッション一例(k-12領域)
- “Modern” Curriculum, “Modern” Classrooms
- 現代において社会から求められる労働力や学生のニーズに対して現代の教育がそれを満たせているか?という問いについて、昨今各国の政府が提唱しているSTEM教育、様々な民間発EdTechサービスの勃興、VR/AR技術を活用した教室など、近年の教育領域のトレンドを紹介しながらディスカッションを行う。
- Game Technology Transforming The World of Education for Good
- 教育領域において疑念を持って見られがちな「ゲームによる学習」において、エンゲージメントは高まるという長所はありながらも、ゲームに子供が過剰にハマることによるリスク(例えばスクリーンに接している時間増長による集中力の減退など)にはどのようなものがあり、そのリスクを教育現場としてどう捉えうるか?というテーマで、ディスカッションを行う。
- The Emerging Teacher Side Hustle
- 教員の平均年収の低さと、それによる今日の米国内における教員の約20%が教育関係での副業(そしてその多くがEdTech系で自宅から仕事をしている)と言われている。平均的なフルタイムの教員よりも収入が5倍という教員の存在も確認されており、こうしたEdTechサービスの勃興自体をどう捉えるかという議論がなされる。
- “Modern” Curriculum, “Modern” Classrooms
2. SXSW EDU – 2020年3月9日〜12日@オースティン (米国)
「SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエストと読む)」というテクノロジー、アートなどの分野での最先端のプレーヤーが集まる米国最大級のカンファレンス内の教育領域を切り出した形での分科会的なイベントで、世界中から約10,000人の教育系スタートアップやVC、学校関係者などが集まる。近年、扱っているトピックが、世界的なトレンドというよりはやや米国国内に関する事象に寄っていると言われている。サウス・バイ・サウス・ウエストという名前の由来は、映画「北北東に進路を取れ(North by Northwest)」をもじって「South by Southwest」と名付けたものと言われている。
- SXSW EDU公式ページ
- SXSW EDU紹介動画
- 昨年度扱われたセッション一例(k-12領域)
- Digital Justice for Digital Natives
- デジタルネイティブ世代の子供たちに対して様々なテクノロジー・メディアを活用した指導を行うシーンにおける、例えば容易に個人情報にアクセスでき得ることによるリスクや、SNS上でのいじめの横行という問題など、テクノロジー・メディアのもつ性質やそのリスクの有無についてのディスカッションが行われる。
- Distraction? Education! E-sports as a Learning Tool
- eスポーツの、学校での実際の授業や部活動などにおける活用事例の紹介と議論
- Pathways to Personalization
- テクノロジーを活用してのカリキュラムの個別最適化に「苦労している」教育系企業による、そのプロセスの共有を通した次の活用可能性を議論する
- Digital Justice for Digital Natives
3. BETT – 2020年1月22〜25日@ロンドン (英国)
British Educational Training and Technologyを略してBETTと呼ばれる、毎年ロンドンで行われる世界最大規模のEdTech系の展示会で、世界100カ国以上から約800社に及ぶEdTechに関わる企業、政府関係者は約1,500人、来場者数は40,000人弱を記録している。近年はロンドンでの開催に加えてBett Asia、Bett Brazil、Bett MEA(中東)、Bett Latin Americaと、4エリアにて分科会を実施しており、各エリアに展開しているEdTech系企業を集め、エリアごとの特性を踏まえた議論や展示会の場となっている。
- BETT公式ページ
- BETT紹介動画
- 昨年度扱われたセッション一例(k-12領域)
- Embracing diversity with education technology
- 「どのようなEdTechのツールを」「どのようなステップで」「どのように活用するか」によって、教員が、EdTechを価値ある存在とし理解し活用できるようになり得るかという観点で、とあるベルギーの高校の事例を元に、EdTechの中でデジタルホワイトボードのような比較的簡単なツールの導入から、VRコンテンツの授業活用を学校全体で実施というところまでがいかに導かれたかを紹介する。
- From consumers to community: how edtech enables HE/FE student engagement
- 高等教育(大学や大学院など)において、学生が単なる教育を受ける者としての存在(消費者)のみならず、その学生同士や研究者、もしくは大学の外といかに関係性を強化しエンゲージメントを高められるかという観点で、EdTechが果たすことのできる役割の可能性について議論を行う。
- Embracing diversity with education technology
4. Edvation x Summit– 2019年11月4日〜5日@東京
2017年より日本で行われているEdTech系のカンファレンスで、テクノロジーを背景とした新しい形の教育の選択肢の紹介や、教育領域におけるイノベーター同士の交流を促進することを、主たる目的としている。スピーカーには日本に限らず諸外国のEdTech領域のキースピーカーを招聘しており(同時通訳付き)、日本に限らないスコープで国内外の先進事例をキャッチアップすることができる。
- Edvation x Summit公式ページ
- Edvation x Summit紹介動画
- 昨年度扱われたセッション一例(k-12領域)
- ブロックチェーンは教育に何をもたらすのか
- 新たな学びのあり方を模索する中での、ブロックチェーンという新たな技術を通して「学校中心の中央集権的な教育」から「社会のあらゆる場所で学習できる非中央集権的な教育」を推し進めることができるのか?について、日本にとどまらず諸外国の実証実験の事例共有を交えながらディスカッションを行った。
- 外国からみた日本の教育クラウド
- 日本の学校教育における教育クラウドの利活用が諸外国と比べ大きく遅れをとっている現実を踏まえ、Google、Microsoft、Amazonなどの各教育領域担当者の方々により、日本の教育のために「何が便利なのか」そして推進のために「何が必要か」「どうしたら良いか」について、教育行政や教育現場へ向けた提言を行った。
- AI時代に求められる人材とこれからの教育・社会
- AI(人工知能)が日常的に活用される未来において、どのような能力をもつ人材が求められ、そのために教育や社会が準備・提供すべきこととは何かについて、AIに関する研究者や民間での事例を交えてディスカッションを行った。(弊研究所の稲田も登壇)
- ブロックチェーンは教育に何をもたらすのか
5. GET 2019 – 2019年11月25日〜26日@北京(中国)
中国で毎年行われている、アジア最大規模のEdTechカンファレンス。世界22カ国から100社以上のEdTech系企業が参加し、5,000名規模の来場規模を誇っている。NewOriental、TAL、VIPKID、Yuanfudaoなど中国を代表する教育系企業やスタートアップが数多く参加している。
- GET 2019公式ページ
- 昨年度セッション一例(K-12領域)※公開情報が限定的なためタイトルのみ掲載。
- 「Creative Learning」に関する米国の主要教育EdTechサービスからの教訓
- 急速に成長するインドのEdTechサービスの可能性と限界
- AI技術は教育現場をより「温かく」できるのか?
- 人工知能を活用するEdTechにおける成功・失敗事例
- 「MOOC時代の10年」に対する、中国が学ぶべきレビュー
- 教育領域における消費者意識の向上とそれに伴う新たな課題
考察
上記にて例示的に記載したセッション名はあくまで一例であり、行われるセッションはカンファレンス及びその参加層によって様々でもある。そのため一概に現在のEdTech領域はこういうトレンドであると結論づけることは難しいが、新たな技術の導入サービスのプレゼンテーションと、一方でそれをどう使うのか・使える可能性があるのかという観点に加えて、そうした技術の浸透により起きうるリスクや懸念点について警鐘を鳴らす場にもなっているというのは共通して見て取れる特徴かもしれない。
例えば全体的に「人工知能」「AR/VR」など、昨今バズワード的になっているトピックを学校教育・私教育など各種教育現場においてどう活用すべきかを論ずるテーマが散見されるが、新たな技術の活用可能性という光の側面だけでなく「教訓」「限界」「メディアリテラシーへの警鐘」など、その活用に当たってのイシューに関しても考察を深めるセッションもまた同様に実施されているというのは興味深い。
また、第一回記事の考察でも述べた通り、教育現場での「テクノロジーの力×良質なコンテンツ×リアルな価値(人・場所・仕組みによる学習行動へのコミットメント)の掛け算の総和をいかに大きくできるかという議論が、世界のEdTech領域では既に巻き起こっており、こうしたカンファレンスもまたその議論の機会としての役割を担っており、EdTechを活用することによるリスクであったりそのリスクも鑑みた上での、テクノロジーとの融合の可能性といったような、EdTechの活用について一段深いトピックとして議論されているように感じる。一方日本のEdTech領域に目を移すと、ようやくEdTechをどのように活用すべきかという議論がされ始めているが、その議論の成熟度合いは海外と比較するとまだもう一歩二歩近づける余地があるように思わざるをえない。
今後、今回紹介したEdvation x Summitのような機会をはじめとして、様々なステークホルダーがEdTechという領域の可能性、そしてそれだけでなくリスクや限界点についても喧々諤々と議論を交わすという営みが、産官学を横断して起こり続ける動きとなっていくことを願いたい。
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