第1回学習データで探る生徒の実態
「中学生が抱える “つまずき” 数学編」

EdTechの普及により注目される「習得主義」

新型コロナウイルス感染拡大によって、1人1台のデジタル端末を配布する「GIGAスクール構想」が前倒しとなった。これにより、教育現場でEdTechの活用が加速し、個別最適化された学びが進むと期待されている。そうした変化の中で、教育の専門家の間では「習得主義」という考え方が注目されている。

日本の教育現場では、学年ごとに計画されたカリキュラムに沿って授業を行い、履修することを目的とする「履修主義」という考え方が広く取り入れられてきた。 対して「習得主義」は、時間の制限をかけず、一人ひとりの進度で学習内容を習得することを目指す考え方だ。


生徒の実態を定量データで捉え、これからの学びのあり方を考える

履修主義と習得主義には双方にメリット・デメリットがあり、それらを踏まえた上で、学びのあり方を考えることが求められている。

第一歩として、従来の「履修主義」に基づいた学習の実態を適切に把握することが重要だと考える。

EdTechの普及により、これまで分析が難しかった「生徒が単元を習得するまでの詳細な学習プロセス」が集まってきている。今までも模試や学力調査などで年に数回の定点観測を行うことはできていた。しかし、これらでは試験当日の学力水準は把握できても、「各生徒がどのような学習プロセスでその学力に到達したのか」という学習プロセスを把握することはできなかった。

そこで、学習の実態を捉え、新しい学びのあり方を考えることを目的に、atama+EdTech研究所主席研究員の森本が、EdTechの一つであるatama+の学習データを分析する連載「学習データから探る」を始める。

初回は、中学生の数学におけるつまずきの実態を調べたい。指導者の中には「中3だが中1の内容を分かっていない」「中2だが小4の内容を分かっていない」など、前学年の学習内容につまずく生徒に悩んだ経験がある方も多いのではないだろうか。

実際、どの程度の生徒が前学年の学習内容につまずいているのか。 その実態を調べた。


調査概要

対象期間:2021年4月1日~11月30日

対象人数:期間内にatama+で数学を学習した中学1~3年生のうち約48,000人を抽出(各学年15,000人以上)

調査手法:前学年以前の単元の「講義動画」視聴を「つまずき」ありと定義

※講義動画は、atama+の教材コンテンツの一つで、生徒が「つまずきを抱えている」単元で視聴される。


中学生の4人に3人が前学年以前の単元につまずき、学年が進むにつれて割合も増加

調査の結果、前学年以前の単元につまずきを抱えていた中学生は全体の約78%だった。4人に3人が前学年以前の単元につまずいていることになる。



続いて、学年別につまずきを抱える生徒の割合を確認した。中学1年生で約66%、中学2年生で約81%、中3生で約85%と、学年が上がるにつれて、つまずきを抱える生徒の割合も大きくなっていた。


特に、中学1年生と中学2年生の割合を比較した時に生じる変化の大きさに注目したい。中学1年生の66%から中学2年生の81%で15ポイント増加しており、中学2年生から中学3年生の4ポイント増加と大きな差が生まれている。

「中1の壁」という言葉があるように、中学生になってから学校生活や授業内容などの環境変化に適応しきれず、学習面の苦手意識を抱える生徒が多いと言われている。中学1年生と中学2年生における割合の差は、そうした実態を表しているといえそうだ。

「1人ひとりのつまずきに寄り添えない」という課題にどう向き合うか

その時理解できなかった、病気で休んでいた、当時は勉強に身が入っていなかった、遠征があった、忘れてしまったなど、つまずきを抱える理由は生徒によって様々だろう。ある単元を習得するためには、関連する複数単元の理解を積み重ねることが欠かせない。できるだけ早くつまずきを特定し解消することが重要だ。

しかし、理解度に関わらず予定通りのカリキュラムを進行する従来の教育では、なかなか一人ひとりのつまずきを解消することが難しい。EdTechの活用などにより、生徒一人ひとりの理解度にあわせた教育を模索することが求められているのではないだろうか。


第1回学習データレポート(PDF)
2022年1月24日